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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百五十 一弧編 「指導方針」

水曜日。山仁やまひとさんの家から帰ってきて寛いでた僕たちのところに、鷲崎さんからのビデオ通話があった。


「こんばんは」


割ともう馴染んだ感じで挨拶を交わすと、鷲崎さんはさっそく本題に入った。


「すいません。先輩は、昨日、次男の頭を殴って頭蓋骨骨折の重傷を負わせた父親が逮捕されたっていうニュースを見ましたか?」


そういう話題を振ってくるということはしっかり耳を傾けないといけない内容だと感じて、僕たちは姿勢を正してた。


「うん、ニュースは見たけど、それがどうかしたのかな…?」


聞き返した僕に、彼女は信じられないことを口にした。


「実は、逮捕された父親と親族関係にあるらしい子が、結人ゆうとのクラスにいるんです」


「…え?。それって…」


「その子の名字も宿角すくすみで、あまり聞く苗字じゃないからまさかと思ってクラス名簿を見たら、名前もすごく似てて。もしかしてその子の父親が逮捕されたのかと思ったんですけど、結人ゆうとに聞いたら普通に学校に来てるって。だから直接の親子じゃなくて親族なのかなって」


僕は絵里奈や玲那と顔を合わせてしまってた。僕の目を見た絵里奈がうなずいたから、僕と同じことを感じたんだろうと思った。


「鷲崎さん。その話、誰か他の人にもした…?」


そう問い掛ける僕の口調に何かを感じたらしく、鷲崎さんもハッとした顔になって僕を見た。


「あ…、いえ、他には誰も…。私、また何かマズいこと言いました…?」


怯えたみたいに聞いてくる鷲崎さんを見て、僕はなるべく落ち着いて話し掛けるように心掛けた。


「僕たちは大丈夫だけど、あんまりそういう話は軽々しくしない方がいいと思うんだ。たとえもし、その子が本当にあのニュースの父親と親族だったとしても、こういう噂話的に広めない方がいいんじゃないかって気がする」


「え…、あ、そうか。そうですね…。ごめんなさい…!」


慌てて縮こまる鷲崎さんに、僕はゆっくり言葉をかける。


「ううん、僕たちはいいんだけど、その子にもし何かあったらって思うとさ。ただ、鷲崎さんを責めてるわけじゃないんだよ。僕たちだってうっかりそういうことをしてたことはあると思うから責めたりする資格はないにしても、こうやって気が付いた時にはお互いに注意し合えたらいいんじゃないかってね」


そうだ。僕たちもたぶん、無意識に今の鷲崎さんと同じことをしてきたと思う。ただ、自分たちが今、そういう形で玲那の噂とか広められたりしたら嫌だなって思ってる以上、そんなことしないように気を付けたいなと思ってるんだ。


「そうですね。今回のニュースのことでその子に迷惑が掛からなければいいんですけど……」


呟くように口にしたそれで、やっぱり絵里奈も僕と同じことを心配してたんだって分かる。


「うう…、ホントに私ってダメですね……」


鷲崎さんは落ち込んだ感じで、頭を抱えてた。だけど、


「大丈夫。他の人に話してないんなら、僕たちはここでもうその話は呑み込むからさ。それに、そういうのが気になってしまうっていうのも分かるし」


と言わせてもらった。そうだよ。次から気を付ければいいだけなんだ。


すると鷲崎さんは、


「実は、その男の子がよく結人ゆうとに絡んできてケンカになるみたいだから、私たちにとっても直接関係ある話だったもので、つい……」


だって。ああ、そうなんだ。なるほどそれならただの噂話っていうよりも自分に関係ある話ってことになるのか。とは言え、逮捕された父親との関係は今のところはっきりしてないし。その点については蛇足ということでやっぱり触れないようにした方がいい気はする。


「そうか。だったら気になっても当然なのかな。でもニュースの件はとりあえず横において、ひょっとして今日は、その子のことで相談ってことだったのかな?」


「…はい。その子はとにかく乱暴な子らしくて、結人ゆうととだけじゃなくて他の子ともしょっちゅうケンカしてるらしいです。そういう子とどうやって関わっていったらいいのかなって思って……」


悩ましい問題だと思った。沙奈子が通う学校には、そこまでの子はいない。強いて言うなら千早ちゃんがそれっぽい感じだったのかもしれないけど、沙奈子との関係が少し拗れてるっていうだけで積極的に指導してくれて、しかも、担任、副担任、学年主任、場合によっては教頭先生までが連携して丁寧に対応してくれてたから、僕たちは成り行きを見守ってるだけでよかっただけだし。


もちろん、沙奈子のことは注意深く見守って、沙奈子自身が千早ちゃんとの関係を拗らせるようなことをしないように感情的にならないで済むように気持ちを受けとめてあげるようにはしてたつもりでも、千早ちゃん自身にはそれこそ何もしなかったからね。


それを説明すると、鷲崎さんは目をまん丸にして驚いてた。


「え?。沙奈子ちゃんのところの学校ってそうなんですか?。そんな学校があるんですか?」


その驚きは、僕にとっても覚えのあるものだ。千早ちゃんのことで担任の先生がわざわざ何度も家まで来て状況説明してくれたりしたことに驚かされた。僕自身が通ってた小学校との違いを実感させられて。


「鷲崎さんが驚くのも無理はないけど、そうなんだよ。そのおかげで、沙奈子も助けられたんだ。だからもし、どうしてもってことになったら転校するっていうのも選択肢に入れたらいいんじゃないかな。もちろんそんな簡単には選べないにしても、いざとなればっていうのがあるだけでも気持ちの余裕にはなりそうだしさ」


「そうかあ、そういうのもありかもしれないですね。実は結人ゆうとは一度、学校でのトラブルに巻き込まれて転校してるんです。それもあってあまり何度もっていうのはどうかなって思うんですけど、頭に入れておきます。ありがとうございました」


そう言った頃には、鷲崎さんもかなり落ち着いた感じになってたと思う。転校とか引っ越しとかあんまりホイホイできることじゃないにしても、当てがあるのとないのとでは気持ちの上でも違う気がするし。


「私が通ってた学校も、正直、イジメとか生徒同士のトラブルとかには関わろうとしない学校だったと思います」


鷲崎さんが退出した後で、絵里奈がそんなことを言ってきた。確かに僕たちにとってはそれが普通だった気がする。


『私の場合は学校のことを気にしてる余裕もなかったからあんまり覚えてないんだけど、覚えてないってことは平和だったってことかも。


沙奈子ちゃんの学校とは別の学校だったけど同じ市内の公立の小学校だったからね。たぶん、対応とかが当時からそうなってたってことなんじゃないかな』


そうか、玲那は生まれも育ちも市内だったっけ。


沙奈子の通う学校は生徒数も少ないから目が行き届くっていうのもあるにしても、本当に助かってるっていうのを改めて実感させられたのだった。



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