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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百四十八 一弧編 「スカート嫌い」

月曜日。今日は祝日だから朝からのんびりする。千早ちゃんが来るという予定もない、ホントにのんびりした一日だ。


絵里奈が仕事に行ってからは僕と沙奈子と玲那の三人で時間を過ごす。と言っても、沙奈子は人形のドレス作り、玲那はフリマサイトに出品した品物の管理と、それなりにすることがあるけどね。


沙奈子の作るドレスらしいドレスを見ながら思う。イチコさんや波多野さんがどうしてスカートとかを嫌うんだろうって。


二人は決してトランスジェンダーとかそういうのじゃない。確かにいかにもな女の子らしさというのとは縁遠いかもしれなくても男性になりたいわけでもないっていうのは伝わってくる。性的なアピールをしたくないだけなのかなとは思わなくもない。


だけど僕は何となくその気持ちも分かるような気がしないこともなかった。イチコさんも波多野さんも、ちゃんと人として魅力的な部分があるんだと思う。僕が絵里奈を好きになったのも、絵里奈に女性的な魅力を感じたからっていうのとは違う気もしてる。


確かに、絵里奈と二人きりになると彼女の女性としての部分を強く意識してしまうっていうのはある。ただ、『だから絵里奈が好き』っていうのとは確かに違うんだ。他の女性に対してそういう気分になれないのは、たぶん、絵里奈以外の人にそこまで気を許すのが怖いっていうのもあるのかな。とは自己分析してる。今まで女性に対してそういう気持ちになれなかったのも、結局は怖かったからかも。


性的に興奮してる状態って、すごく無防備になる瞬間でもあるはずだ。絵里奈以外の女性相手だとそこまで無防備になるのを本能的に怖がってるのかもしれない。僕は根っから臆病だから。


もっとも、沙奈子や玲那に対しては怖がってるというよりはやっぱり『自分の娘』っていう刷り込みができてるからかもしれないけど。そう、僕にとって沙奈子や玲那は『女性』じゃないんだ。それは失礼じゃないかって言われたら返す言葉もない。申し訳ないって気分にもなる。でもそう思えないんだからどうしようもない。どこまで行っても僕にとっては娘なんだから。


ただ、それは悪いことばかりでもないと思う。そのおかげでしっかりと分別を付けられるんだからさ。僕は二人にとっては『父親』なんだから、無理に自制しなくても二人のことを性的な目で見なくて済むっていうのは、正直、ありがたい。リラックスした状態で二人に接することができるっていうのはとても助かってる。だから沙奈子も玲那も僕のことを信頼してくれてるんだろうっていうのもある。特に玲那の場合は、それが重要だと思うんだ。僕がそういう目で彼女を見ないからこその信頼って言うか。


イチコさんのお母さんは、いかにも女の子らしい女の子って感じの女性じゃなかったって言う。でも、山仁やまひとさんがどれほどイチコさんのお母さんを愛してたのか、イチコさんの様子を見てると分かる気もする。お父さんとお母さんがちゃんと愛し合ってるっていうのを子供として実感できてる余裕を感じるのかな。


僕は、両親にそんなものを感じたことがなかった。本当になんで結婚したんだろうっていうくらいにいつもいがみ合ってた気がする。そんなにイヤならさっさと別れればいいのにとも思ってた。親の離婚は子供にとってもイヤなものだとも言うけど、それも時と場合によると思う。僕の両親の場合は、離婚してくれた方がまだマシだったかもしれない。実際、DV親とかの場合は離婚して距離を置いた方がいい場合が多そうだし。


波多野さんの場合はまた事情が違いそうだとしても、田上たのうえさんの場合はどうなんだろう。そういうのも、それぞれの事情によって答えが変わるんだろうな。一概にどちらが良いとは言えないっていうのも実感としてある。


そういう方向で考えてみても、両親の仲がすごく良かったらしいイチコさんと、本人曰く『仲は決して良くない』という波多野さんが同じようにスカートを嫌うっていうのも何だか興味深い。あくまで僕が見た印象だけで言うなら、イチコさんはお母さんを見てたことで性的なアピールの必要性を全く感じなくてスカートを不要だと認識してしまったのに対して、妹を性的な目で見てたらしいお兄さんに対する嫌悪感が基でそういうものを連想させるスカートが嫌いになったのが波多野さんっていう感じなのかな。


それは僕の勝手な解釈だけど、実際にそれぞれ異なる理由でスカートを嫌ってるっていうのは感じるんだ。


だけど、イチコさんも波多野さんも、女の子として可愛い部分もあるんじゃないかな。そういった部分をちゃんと見てくれる男性と出会えたら結婚とかも決して縁遠いってわけでもなさそうにも思える。まあ問題は、男性の方にそれだけの器を持ったのが必ずしも多そうじゃないってことなのかもしれないけどね。


『器が小さい』って言われることに過剰に反応する人が多いように感じるけど、そうやって反応してる時点で明らかに器が小さいと、男である僕でも思ってしまうんだよなあ。逆に山仁さんとかを見てると、そんなことを言われてもそれこそ意にも介さないんだろうなっていう印象しかない。僕は自分の器が大きいとは思わないものの、むしろそれを自覚してるからその通りとしか思わない。


器が小さいと言われて腹を立てる以前に、そういう自分を情けないと思ってるんだ。もっと大きな器で受け止めたいっていつも思ってる。どうすれば山仁さんみたいになれるんだろうって考えたりもする。


ただ、山仁さんの場合は、結果的には器がどうとかいう次元の問題じゃなかったんだけどね。正気を保ちながら現実を受けとめてその上で幸せを掴もうとするならそれこそ些細なことを気にしてる暇もなかったってことだったらしい。器が大きい小さいなんて話を気にしてられるのは実はまだまだ状況に余裕があるってことなのかも。大きな器を持つ為にはそこまでの経験をしないといけないというのなら僕は器の小さい人間のままでいいとさえ思える。


まったく、世の中にはいろんな形の不幸が無数に存在するんだなって実感しかない。


それに比べれば、女の子がスカートを穿かないくらい、いちいち気にするのも馬鹿らしいくらいどうでもいい話って気もしてくる。とは言え、イチコさんや波多野さんにとってはそれなりに大きな意味を持つことでもあるらしいし、本人の前で『どうでもいい話』とは言わないけどさ。


そう言えば、玲那がスカートを穿いてるところも、会社の制服以外では見た覚えがないな。本当は制服のスカートも好きで穿いてたわけじゃなさそうだ。


沙奈子はワンピースとかをいつも選ぶからスカートが嫌いってわけでもなさそうだけど、だからって女の子アピールをするために着てる感じもしないんだよね。



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