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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百四十七 一弧編 「ウェディングドレス」

玲那の過去については、これからも少しずつ触れていくことになると思う。この子自身が話せる範囲でだけど、今度こそ僕も受け止めていきたいから。今回は、玲那が自分のこととしてかつて話してくれたことのどこまでが空想でどこまでが本当だったのかをはっきりさせてもらえればと思ったんだ。


普通に考えたら嘘を吐かれてたってことになるんだろうな。だからもう何を言われても信用できないって思う人もいるんだろうな。でも僕は、あえてそんな風に言うしかなかった玲那のことを受けとめたい。他の人には無理でも、僕はそうしたいんだ。


何一つ嘘を吐くこともない人っていうのも、僕はいないと思ってる。僕だって事実を言ったら面倒なことになりそうだと思ったら適当に誤魔化してしまうのはある。そういう形で嘘を吐いてしまったこともたぶんある。だから僕も沙奈子や絵里奈や玲那に完璧を求めないでおこうと思ってるんだ。僕にはそんな資格はないから。


それに、あの頃の玲那にとっては望んでも手に入れることのできなかった『普通の家庭』を、例え空想の中にでも求めてしまうのは無理もないことなんじゃないかって気がする。それほどだったんだろうなって。


「ただいま」


絵里奈が帰ってきて四人になると、ホッとした空気が広がった。その上で、絵里奈にも話した。


「実は玲那に、去年話してくれたことで改めて話をしたんだ」


「へえ、どんな話ですか?」


「子供の頃の話だよ」


僕がそう言った途端、絵里奈もハッとした表情になった。ピンと来たんだと思った。


「そうですね。いずれはちゃんとお話ししないといけないことでしたね…」


「うん。ちゃんと話してもらったよ」


「良かった。話せたんですね…。結果としては嘘だったことはごめんなさい……」


「いいよいいよ。絵里奈の責任じゃないし」


「でも、知っていて黙っていたのが申し訳なくて…」


「いろいろ事情があるのは僕にも分かるよ。あの時点ではお互いまだ距離があったしさ」


そんな僕と絵里奈のやり取りに、玲那が加わる。


『ごめん。二人にはホントに申し訳ないと思ってる』


そうメッセージを送ってきて叱られた子供みたいにしょげかえってる玲那に、僕は改めて言った。


「大丈夫。ちゃんと話してくれたんだからそれでいいよ。それに、もし、あの頃に本当のことを話されててもたぶん僕の方が受けとめきれなかった気がする。まだまだ沙奈子のことだけで手一杯だったしさ」


言いながら沙奈子の頭を撫でると、彼女も僕を見てくれてた。この子も分かってくれてるんだと感じた。


『うう、お父さんが私のお父さんでホントに良かったよぉ』


ちょっと冗談めかしながらも、でも玲那の目には涙が光ってるのが分かった。


こうやって家族でしっかりと話し合えるっていうのをこれからも大切にしたいと改めて思う。そういうことができなかった僕の両親や玲那の実の両親の失敗を繰り返さないために。そういう意味では、絵里奈の両親もそうなのか。


でも、念の為に…。


「そう言えば、絵里奈が話してくれたことは本当なんだよね?」


と僕が聞くと、絵里奈が目をまん丸にして、


「も、もちろんです…!。恥ずかしくて話せないことは話してないだけですから!」


だって。


「…恥ずかしくて……?」


聞き返すと、彼女の顔がボッと火が点いたみたいに真っ赤になった。


「ご、ごめんなさい…。今はまだ心の準備ができてなくて…、いつか必ず話しますから、もう少し待ってください……!」


俯いてもじもじする絵里奈が可愛くて、僕は思わず顔がにやけてしまってた。ギャルっぽい格好をしてた時の話とか、興味が無いこともない。でも。


「構わないよ。無理はしなくていいからさ」


なんてやり取りをしてると、玲那が、


『か~っ!、真面目に気にしてるのがバカらしくなってくるよね~』


ってメッセージを送って舌を出してた。いつもの感じに戻ってる気がした。


いいな。何だかすごくいい。気持ちいい。みんなのことがすごく近いって思えるよ。


だけどそれとは別に、僕は、去年の今頃っていうことでまた別のことを思い出していた。


結人ゆいとの夢』のことだ。


最初は、五十年後くらいって設定の夢で、六十歳くらいになった沙奈子のところに結人ゆいとが里子としてやってくるって内容だったと思う。無茶苦茶に乱暴な結人ゆいとを沙奈子が大きな器で受け止めてるって。実際にそこまでなれるかどうかはさすがに分からないし、完全に『そういう人になってほしい』っていう僕の願望そのものが夢として出てきただけだった気がする。


それがいつの間にか、六年生くらいのちょっとだけ未来の沙奈子と、僕の夢の中で将来結婚することになるらしい鮫島結人さめじまゆいととの話にすり替わってたんだよな。しかも内容がますます具体的になっていって、それこそまるでドラマでも見てるみたいに話が展開していって。


いつの間にかその続きは見ないようになったけど、正直、その後どうなったのか気になってはいた。


とは言えこれはもうホントに話しても仕方のないことのような気がするし別に大事なことでもない気がするし話すのも気恥ずかしいから今のところは敢えて話すつもりもないけど、鷲崎さんと再会して鯨井結人くじらいゆうとくんとの縁ができたことが何だか不思議だった。ただの偶然なんだろうと思いつつも、つい意味があるような気もしてしまう。


ただ、こういう不思議なこともあるんだろうなっていうのも同時に感じる。


まさか、あの夢の続きを現実で見ることになるんだろうか…?。


沙奈子と鯨井結人くじらいゆうとくんとが結婚?。山下沙奈子から鯨井沙奈子になるって?。


さすがにまだ全くピンとこない。大体、まだ鯨井結人くじらいゆうとくんの姿すら見てないんだから、そこまで想像するのは無理がある気がする。


それに、これはあくまで僕の個人的な願望だけど、どっちかと言ったら大希ひろきくんとの方がと思うものの、そうなると今度は星谷ひかりたにさんの気持ちとも絡んでくるからなあ。星谷さんのことも応援したいってのも本音だし。


ああでも、そもそも沙奈子自身がまだ恋愛とかにはまったく興味もなさそうだから、先走りすぎにもほどがあるとも言えるのか。


しかし、自分がこういうことであれこれ考えるようになるっていうのも、昔は想像もしてなかったなあ。自分のことどころか、自分の娘の恋愛とか結婚のことなんて。


話が一段落して人形のドレス作りを再開した沙奈子の姿を見ながら、ぼんやりとそんなことを考える。ふわっとウェディングドレス姿のこの子が頭をよぎってハッとなる。まだずっと先のことのはずでも、十分にあり得る未来なんだな。


僕と絵里奈の時はそれどころじゃなかったから結婚式すらしてないけど、沙奈子の時は小さくてもいいからそういうのをできたらいいなと思ったりしたのだった。



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