表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
444/2601

四百四十四 一弧編 「取捨選択」

千早ちゃんたちが帰った後、沙奈子と一緒に家を出る。絵里奈と玲那に会いに行くためだ。今日はまた、いつもの人形のギャラリーに行くことになってる。


さすがに何度も来てるから慣れたもので、すんなり合流できた。ギャラリー内ではやっぱり沙奈子と絵里奈が人形をじっくり見てて、僕と玲那は喫茶スペースで待つ感じだ。先週はあんまりゆっくり話ができなかったから今日は二人だけの時間を堪能する。


『ところで、鷲崎さんって可愛い人だよね。さすがはお父さんの元カノ』


玲那が「ししし」って感じで笑いながらそんなメッセージを送ってきた。


「別に元カノってわけじゃないんだけどな」


苦笑いを浮かべながら僕は返す。すると玲那も、ふっと柔らかい印象の笑顔に変わった。


『分かってる、分かってるって。ただ、可愛い人だっていうのはホントにそう思うよ。絵里奈に似てる』


「ああ、やっぱりそう思う?。実は僕もそう思ってた」


『結局、お父さんを好きになる女の人って絵里奈や鷲崎さんみたいな感じなんだと思うよ。母性が強くて感受性が強いタイプ』


「その辺りはよく分からないけど、そういうことなのかな」


『うん、そうだと思う。そういう女性じゃないと、お父さんの本当の魅力には気付かないってこと』


「え?、でもそれじゃ、玲那はどうして僕を好きになってくれたのかな?」


『私はほら、外見から入ったから。兵長に似てるって』


「またそれか。ファンの人に申し訳ないし、髪型変えようかな」


『え~?、それはダメだよう。お父さんは今のままでいいの』


「しょうがない子だなあ」


『いいのいいの。ちゃんと甘えさせてくれるんでしょ?』


「それはもちろんそうだけどさ」


『だからお父さんのこと大好き』


「ありがとう。僕も玲那のことが好きだよ」


『あ~ん、もっと言って!』


「好きだよ、玲那」


僕がそう言うと、玲那は顔を真っ赤にしてもじもじしてた。可愛いなあ。


でも、しばらくそうしてたと思ったら不意に真面目な顔になって、僕の顔を覗き込んでくる。


『話は変わるけど、鷲崎さんのところの結人くんのこと、お父さんはどう思う?』


「どうって…?」


『沙奈子ちゃんと仲良くできるかどうかってこと。


やっぱりその辺をちゃんと見極めないと、鷲崎さんはともかく結人くんと沙奈子ちゃんを会わせたりっていうのはさ』


「それは僕も考えたよ。だから今は鷲崎さんといろいろ話をして大まかなところを掴もうとしてる感じかな」


『そっか。お父さんのことだからちゃんと考えてくれてるとは思ったけどさ、どうしても気になるし』


玲那も沙奈子のことをしっかり考えてくれてるんだなと改めて思った。この子は本当に優しい子だ。だけどそれは、香保理かほりさんが彼女のことを受けとめてくれたことがきっかけだったんだろうな。ああでも、それ以前にも、この子が一番辛かった頃に保木やすきさんが支えてくれてたっていうのもあるんだと思う。もしかしたら香保理さんや保木さん以外にもこの子のことを受けとめてくれてた人がいるのかもしれない。そういう人たちのおかげで、この子は今、こうしてられるんだ。


しみじみ、人は一人では生きていけないんだっていうことを感じる。


実は何度か、玲那がそうやって受け止めてくれる人たちに出会えなかった場合を夢に見たことがある。でもそれはどれも、辛い結果に終わってた。中には、玲那が殺人鬼になってしまうっていう、考えたくもない結末を迎えた夢もある。だから、僕がこの子に出会えたことを大切にしたい。僕が夢で見たような最期をこの子には迎えさせたくない。


しゃべれなくなってしまったことはすごく残念だと思う。でも、悲しい結末を回避するために必要なことだったとしたら、それもアリだったのかもしれないと考えるようにした。


都合のいい解釈かもしれない。本当ならそこまで必要じゃなかったのかもしれない。だけど、今、現にこの子がしゃべれなくなってしまったっていう事実を受けとめるための解釈ということなら、それは決して悪いことじゃないと思うんだ。たとえそれが詭弁であったとしてもね。


僕は、沙奈子や絵里奈や玲那を守るためなら、詭弁だって弄するよ。僕は聖人君子じゃない。家族を守るのに避けられないのなら、卑怯者にだってなってやる。悪魔にだってなる。


ただそれは、本当に最後の最後の手段かな。安易にそういうことをしてたら、たぶん、逆に不幸を招くだけだから。それこそ命の選択をしなければいけない時とかの緊急事態の場合に限ってってね。


だけどそういう状況に陥らないようにあらかじめ回避できることは回避していきたい。わざわざ自分から危険なところに行くようなことは避けたい。夜中に出歩いたりとかして変なのに絡まれるとかっていうのは避けられる危険だと思う。近所のコンビニにも深夜になれば困った感じなのがたむろしてることはたまにあった。だから沙奈子を連れて深夜に出掛けたりはしない。一人でもしない。


玲那も、そういうのを気を付けてくれてた。外出自体を避けてるっていうのもあるけど、迂闊に出掛けたりはしない。元々インドア派なこともあって部屋に閉じこもるのは得意らしいし。


僕は以前からお酒とか飲みにいかなかった。お酒自体が好きじゃないっていうのもあったし、酔っぱらいとかに絡まれるのが何よりイヤだった。絵里奈と玲那も、以前はお酒を飲みに出掛けたりっていうのはあったものの、今ではすっかりご無沙汰だそうだ。行きたいとも思わないって。それよりも四人で顔を合わせてる方がずっといいって。たまに、缶チューハイみたいなのを買ってきて二人でほろ酔いになる程度のことはあるそうだけど。


そんな風にして、僕たちは自分にとって何が一番大切かっていうのを考えて取捨選択していくんだ。お酒を飲み歩いてはしゃぐっていうのも確かに楽しいんだろうしそういう風にしたい人にそれをするなとは言わないにしても、僕たちにとっては今はもう、それは大事なことじゃない。それよりもっと楽しくて癒されて気分転換になるものがあるから必要なくなったんだ。そんな必要のないもののために夜に出歩くこともしない。


それをつまらない人生だって言う人がいるなら言ってもらって構わない。だけど何が一番大切か、どういう風に人生を楽しむかなんて、それは自分の責任において選ぶ分には他人にとやかく言われる筋合いのことじゃない。そもそも誰かを傷付けるようなことでもないんだから、それこそ何の問題もないハズだ。


家の外に癒しを求めるのか、家の中で家族でお互いに癒されるのか、そのどちらを選ぶかってことでしかないと思う。僕たちは、家の中で家族同士で癒し合うのを選んだだけだ。


山仁さんたちがそうしてるみたいにね。それが僕たちの性には合ってるんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ