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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百二十九 「僕の魅力って?」

人形のドレスの展示会を満喫した後、近くのレストランで少し遅めの昼食を僕たちはとってた。


そこでまた、鷲崎さんの話題になった。


「正直、いたるさんにそういう知り合いの方がいらっしゃったっていうのは意外でした」


と、絵里奈が遠慮なくズバッと切り込んでくる。でも僕も、やましいことは本当に何もないので普通にしてただけだった。


「うん。実は僕も自分でもそう思ってる」


正直な気持ちだった。だから素直に言葉にした。


「実際、鷲崎さんがどうして僕に構おうとするのか、大学時代から謎だったし」


って。すると玲那が、


『そんなの、お父さんのことが好きだったから以外に何があるんだよ~』


なんてメッセージを送ってくる。


「だよね~。いたるさん、自覚ない『人たらし』ですから」


あ、その言葉。以前に玲那が言ってたやつ。


『マジでそれ。確かに誰にでもモテるってわけじゃないけど、お父さんの魅力って、分かる人には分かるんだよ』


「…そうなの?」


「そうですね。


さっきは意外と言いましたけど、実はやっぱりっていう気もしたんです」


…え?。それってどういう……?。


戸惑う僕を真っ直ぐに見ながら絵里奈は言葉を続けた。


「だって、私も玲那が言ったことの一人ですから。


いたるさんは、無意識に相手のことを受け留めようとしてくれてるんです。他人との間に壁を作ってるように見えて、でも実は他の人がどういう生き方をしても考え方をしててもそれを認めてくれる。だからそれを感じ取れてしまうと、場合によっては好きになってしまうんですよ。


分かりますか?。まさに私や玲那はそれなんですよ…?」


ええ…?。そんなこと言われても……。


確かに僕は、他人の存在を否定しないようにしてる。僕とは合わない相手のことも、あまり関わり合いにさえならないようすれば何をしてても口出ししないようにって思ってる。


『お前みたいな奴は、この世から消え去ってしまえばいい』


ついそんな風に思ってしまいそうになる相手でも、それを正しいことだとは思わない。僕がその人の存在の是非を決めていいとは思ってない。例えそれが、凶悪犯であっても。


怖いんだ。自分がそう思ってるのと同じで、相手からも僕なんていない方がいい人間だと思われてるんじゃないかって。自分が誰かに対していなくなってしまえって思うということは、自分も誰かからそう思われることも認めないといけないはずだって思うから。


でも、僕が誰かのことを『お前なんてこの世には必要ない』って思わないようにしてれば、もし誰かから『お前なんてこの世には必要ない』って言われても、『僕はそうは思わない!』ってはっきり言いきれる気がするんだ。


特に僕は今、大切な人がいる。沙奈子や絵里奈や玲那をはじめとした、悲しませたりしたくない人がいる。だから誰かに勝手に僕の存在意義を決められたくない。


ということは、やっぱり僕が他の誰かの存在意義を勝手に決めていいわけじゃないと思うんだ。


そういうことなのかなあ……。


いたるさん。いたるさんが自己肯定感が低い人だっていうのは私たちも分かってます。でも、いたるさん自身が思ってるほど魅力のない人じゃないんですよ」


『そうだよ。見た目だけだって好きになる人は私たち以外にもいると思うよ。兵長に似てるし』


「って、またその話?。それ、ファンの人に申し訳ないからやめてくれ~」


以前は玲那に申し訳ないからと思ってあまり口に出さなかったそれを、僕はちゃんと口に出して言った。すると玲那は、


『ふ~んだ。お父さんがいくらそう言ったって、私は兵長に似てると思ってるも~ん』


って、「ししし」って感じで笑いながらメッセージを送ってきた。


「そりゃ、玲那がそう思うのは勝手だけどさ…」


と僕が返すと、絵里奈が僕を真っ直ぐに見詰めて言った。


「そういうところですよ。いたるさんは無意識に相手の存在も価値観も認めてくれてるんです。だから沙奈子ちゃんのことも受け入れられたし、私や玲那のことも受け入れてくれたんです。少しくらいイラっとすることがあっても、本質は変わらない。相手と距離を置くことはあっても、それはその人のことを否定しないようにするためなんですよね。


そういうのを感じ取る人は、他にもいるんですよ」


「そういうものなのかなぁ……」


「そういうもんです」


絵里奈にきっぱりとそう言われて、僕はもう二の句が継げなかった。そしてこの時のやり取りで、僕は絵里奈の尻に敷かれ始めてる自分を感じてた気もする。たぶんそれ以前から感じてたのはあったんだけど、意識し始めたって言うか。


だけど、悪い気はしない。絵里奈のお尻になら敷かれてもいいっていう気分も確かにあったんだ。


それが顔に出てたのか、


『な~にニヤニヤしてんだよ~、おとーさん。このスケベ!』


なんてメッセージが。


「え?、そんなニヤニヤしてた?」


「してましたね。私も見ました」


『あっはっは!。おとーさんの負け~』


絵里奈と玲那にそんな風に攻め込まれて、僕は思わず沙奈子の方を見てた。


すると沙奈子も、僕を見て笑ってた。なんだか嬉しそうに。それに気付いた途端、僕も落ち着けた気がする。このやり取りを、この子も楽しんでくれてるんだって実感できたからかな。沙奈子がそういう表情をできるのが、僕にとっても何よりだから。


「いいよもう。そういうことで」


僕もなんだか笑えてきて、笑顔になりながらそう言ってた。


でもその後はまた鷲崎さんの話に戻して。


「後で連絡するって言ってたし、鷲崎さんも僕と同じで小学生のお子さんを預かって一緒に暮らしてるらしいんだ。だからもしかするとそのことで相談したいこととかあるのかもしれない」


「その可能性は高いでしょうね。相談できる相手、しかも同じ境遇の相手っていうのはきっと心強いですから」


『だったらそれを拒絶したりするのはおとーさんらしくないから、ちゃんと相談に乗ってあげほしいって私も思うかな』


「分かった。二人がそう言ってくれるんなら、僕も安心して話を聞けるよ」


「その代わり、相談の内容は私たちにも伝えてくださいね。まあ、よっぽどプライベートな内容なら仕方ないですけど」


「うん。そうするよ。それに元々、僕一人じゃ心許なかったし」


『そうだね。一人で背負い込んじゃダメだよ。これ、私からのアドバイス』


「それはものすごい説得力だな。しっかり聞き入れなくちゃ。ありがとう、玲那」


『どういたしまして』


そんな感じで結論が出て、僕たちは帰ることになった。


バス停で絵里奈とキスを交わして、二人に見送られながら沙奈子と一緒にバスに乗る。


鷲崎さんとの再会はこの時の僕にとっては意外な出来事だったけど、後からいろいろ分かってくるごとに、もしかしたら必然だったんじゃないかなとも思うようになったのだった。



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