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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百二十一 一孤編 「最終日」

みんなで星谷ひかりたにさんの別荘に泊まったことも、結局は波多野さんのためだった。でも僕は自分が少しでもそれに協力できたことが嬉しかったし誇りにも思えた。


花火の後でまたみんなで露天風呂に入って(もちろん僕と大希ひろきくんは女子組が入った後だったけど)寛いで、僕と沙奈子と絵里奈と玲那は、今日も四人で寄り添いあって寝ることができた。またしばらくそうできないから、その分もこの時間を味わっておく感じでぴったりとね。


翌朝、日曜日。星谷さんの別荘で過ごす最終日。僕たちは残った時間も無駄にしないようにと、ゆっくりとそれを堪能した。女子組は朝から露天風呂できゃあきゃあはしゃいでた。僕と大希くんはゲームを楽しんだけどね。


昼食はまたアンナさんのピザをいただいて、夕方、迎えに来たマイクロバスに乗り込んで。


「またお越しくださいね」


笑顔で見送ってくれたアンナさんにみんなで深く頭を下げたり手を振ったりして、


「ありがとう!。また来くるよ~!」


「ばいば~い!」


という波多野さんと千早ちはやちゃんがみんなを代表してくれて、長かったような短かったような星谷さんの別荘での時間は終わったのだった。


「楽しかったですね…」


もたれかかって眠る沙奈子の頭をそっと撫でる僕に、絵里奈が声を掛けてきた。その向こうで、玲那も僕を見てた。二人とも満たされた表情をしてると思った。


「そうだね。まさかこんな経験できるとは思ってなかったけど、本当に良かったって感じるよ」


それは、僕の正直な気持ちだった。波多野さんのための今回の宿泊だったとしても、それで僕たち家族も楽しめたんだから、こんな嬉しいことはない。


『別荘持ってる人の気持ちが分かった気がする』


玲那からはそうメッセージが届いてた。確かにね。こんな風にリフレッシュできるのなら、十分にその価値はあるんじゃないかな。もっとも、星谷さんの家の場合は、お客さんをもてなす為の施設っていう意味もあるらしいけどさ。


僕が別荘を持てることとか一生ないと思うけど、それをこうやって役立てられる人のことを羨んだり妬んだりはしないでおこうと思う。その人ができることをしてるだけなんだから。


途中で絵里奈と玲那がまず降りて、それから僕のアパートの近くで僕と沙奈子が下りて、みんなは山仁さんの家の方へと帰っていった。


アパートの玄関を開けると、なんだかすごく久しぶりのような気がした。


「ただいま」


沙奈子と二人で声を掛ける。誰もいないけど、何となくね。


さっそく、ビデオ通話をオンにして改めて四人で「ただいま」って。


お昼にピザをしっかりいただいたから、夕食はあっさりとそうめんにしておいた。それから沙奈子と一緒にお風呂に入る。


「お母さんやお姉ちゃんと一緒にお風呂入れてよかったね」


そんな僕の言葉に、「うん」って頷きながらも、


「でもお父さんとも一緒に入りたかった…」


だって。嬉しいこと言ってくれるなあ。だけど、家族だけならともかくみんなも一緒だとさすがに僕は無理だな。


「もし家族だけで温泉とか行ったら一緒に入れるかもね」


だけど、正直言って僕はこうやって自宅でゆっくりするのが一番かなって気もする。たまのことだし、波多野さんのためっていうのもあったから今回みたいなのもいいけどね。


お風呂の後は、いつもの時間に戻る。沙奈子が人形の服を作って僕はそれを見守って。


今日もみんなで一緒だったから会合の方はない。


『楽しかったな~。また行きたいな~!』


玲那からそんなメッセージが届いた。本当に楽しめたんだな。それが何よりだと思う。


「私も別荘って初めてでしたけど、素敵でしたね」


絵里奈もうっとりした感じでそう言った。女の子はそういうの好きそうだもんな。本来は出掛けるのとかはそれほど好きって訳でもないはずの沙奈子も頷いてたし。




それにしても、今年の夏休みは本当に充実してたな。そしてあと一週間で夏休みも終わりだ。沙奈子の学校は少し夏休みが短いから。


日記は結局、海に行った時のことと星谷さんの別荘に行った時のことにしたらしい。これでもう夏休みの宿題もほぼ完璧だ。あとは歯磨きカレンダーだけだし。


こうして安心してのんびりしてるうちに、月曜日から金曜日までが過ぎて、夏休み最後の週末になった。せっかくなので、またみんなで水族館に来た。千早ちゃんのリクエストでもあった。前回もうちょっとゆっくり見たかったっていうのもあったからね。


さすがに夏休み最後の土曜日だってことなのか、すごい人だった。


「これはちょっと大変ですね」


僕たち家族だけでもはぐれないようにと気を付けてるけど、確かに大変だった。その分、しっかり四人一緒に行動することにした。他のみんなは、無理に一緒に行動するよりははぐれても大丈夫なようにって、携帯を持ってないイチコさんと大希くんにも星谷さんのスマホを持ってもらって敢えて好きに行動することにしたみたいだ。


だけど、イチコさんは見たいものが沙奈子と被ってるからか、何となく一緒に行動してた。ただ、この組み合わせは何気に珍しい気がする。


イチコさんって、本当に不思議な女の子だった、一言で言えば山仁やまひとさんそっくりなんだ。外見も親子だけあって似たところはあるんだと思うけど、何より雰囲気が似てる。飄々として動じないところとか。星谷さんとは別方向で普通じゃないって感じもするかな。


「イチコさんも変わった生き物が好きなんですね」


沙奈子や玲那と並んでウミヘビの水槽を興味深そうに見てた彼女に、絵里奈がそんな風に声を掛ける。


「うん。可愛いよね」


ウミヘビだけじゃなく、ウツボやオオカミウオを見ても「可愛い…!」と呟くあたり、やっぱりちょっと独特の感覚を持ってるんだなって感じた。その辺りは沙奈子や玲那とも合いそうだけど。


ただ普段はそんなに会話とかもなかった。決して僕たちのことを避けてる訳じゃないっていうのも分かってる。それよりはむしろ、そこにいるのが当たり前っていう感じで受け入れてくれてるんだっていうのが伝わってくるって言うか。


星谷さんや波多野さんの方がどうしても目立つけど、よく見てるとあの四人の中ではイチコさんが中心になってるっていうのが慣れてくると分かる気もする。みんなの言葉の端々から、イチコさんの存在が要になってるんだっていうのが伝わってくるんだ。


ただ、どういうきっかけがあって、星谷さん、波多野さん、田上たのうえさんと友達になったのかっていうのは詳しくは分からない。その辺りについては聞かされてない。


別に詮索する気はないんだけど、星谷さんや波多野さんといったすごく強い個性を前にあの平然とした態度というのは何気にすごいと思うんだ。



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