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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百二十 香苗編 「星空のように」

アンナさんが用意してくれた花火の量がすごくて、波多野さん、千早ちはやちゃん、玲那、大希ひろきくん、イチコさん、田上たのうえさん、星谷さん、僕、沙奈子、絵里奈の十人でやっててもすぐにはなくならなかった。


千早ちゃんと玲那と大希くんがすごい勢いで次々と花火をしていって、ものすごくはしゃいでた。イチコさんと田上さんがそれに続く感じかな。


でも気付くと、波多野さんは、みんなが花火をやってるのを、星谷ひかりたにさんと並んで見てる感じだった。


「ありがと…、ピカ。これも私の気晴らしのために用意してくれたんだろ…?」


花火を見詰めながら、波多野さんが星谷さんに話し掛ける。それが僕のところにも届いてきた。


「そうですね。もちろん、みんなで楽しむためですが、そういう意図も確かにありました」


「…まったく…。ピカには敵わないよ。何もかもお見通しってか」


「いいえ…。私はまだまだです。カナのお兄さんに反省を促すことも、カナの家庭を守ることもできませんでした…。私はそれが悔しい。自分の非力さが許せない……」


「何言ってんだよ。ピカはものすごい頑張ってくれてるよ。ピカがいなかったら、私なんて今頃は留置場の中かもしれないよ。誰かに八つ当たりして傷害事件でも起こしてたかもしれない。って言うか、たぶんそうなってた」


「カナ…。そんな悲しいこと言わないでください。私にとってはカナも大切な友人なんです。あなたが苦しむところなんて見たくない。だから私は自分にできることをするんです。私が悲しみたくないから」


「分かってる…。だから私も頑張るよ。私もピカを悲しませたくなんてないからさ……。


でも、ピカもホントに変わったよな。お互い、第一印象なんて最悪だったはずなのにさ」


「それは…。本当に恥ずかしい…。私にとっては忌まわしい過去です。どうしてあんなに思い上がっていられたのか、自分でも分かりません」


「だけど、あそこまでやれるくらいのあんただったから、今はこうして私のことを助けてくれるんだろ?。普通はいくら金持ってたって権力あったって、ここまでできないよ。たかが友達のために何百万も金使って、頭おかしいって」


「金銭の問題ではありません。それに、私はきちんとリターンはいただきます。たとえ時間はかかっても。そのためにはカナには幸せでいていただかないとダメなんです。カナも、イチコも、フミもいないとダメなんです。それは何千万使おうとも手に入らないものです。


カナ。幸せになってください。諦めないでください。でないと私は……」


それまで淀みなく語ってた星谷さんが急に言葉を詰まらせて、波多野さんを見てた。その目には涙が光ってたようにも見えた。


「分かってるよ。私もピカのことが好き。大人相手でもガーンとタンカ切ってみせるカッコいいあんたも好き。ヒロ坊のことで頭が一杯になってあわあわしてるあんたも好き。あんたが泣いてるところなんて、私も見たくない。


だから負けない。ロクデナシの兄貴にも、自分が育てた子供にも向き合えない根性なしの両親にも、正義面した卑怯者共にも。そしていつか、この恩を返す。何十年かかったって必ず返す。まあ、金銭的じゃなくて、精神的にってことにはなるかもしれないけどさ」


「大丈夫ですよ。そのために必要なサポートはしますから」


そう言って、二人は顔を見合わせたままクスクスと笑い始めた。僕と絵里奈は、そんな波多野さんと星谷さんの姿を見て、手を握り合ってた。


「私たちも負けてられませんね…」


絵里奈が呟くみたいにして言った。僕はそれに頷いた。


「そうだね。高校生の子がこれだけの覚悟を見せてくれてるんだから、僕たちがめげてちゃ恥ずかしいからね」


波多野さんも星谷さんも、ううん、イチコさんも田上さんも、みんな闘ってるんだ。この世の理不尽や不条理と。お互いに力を合わせて支え合って。たとえ非力でも、ヒーローみたいなすごい力は持ってなくても、自分の幸せを掴むことを諦めてない。自分にできることで幸せを掴もうとしてる。そのために僕たちも微力ながらも力になりたい。波多野さんのことを支えてあげたい。


改めてそう思わされたのだった。




花火が終わった後はみんなで手分けして片付けて、火種になるものが落ちてないか、ちゃんと全部消えてるかを確かめた。


「お~っ!、花火も綺麗だったけど、星もすげ~っ!!」


空を見上げた波多野さんが声を上げると、みんなも一斉に頭を上げた。確かに、すごい星空だった。僕たちの住んでる辺りだとよっぽど明るい星でないとほとんど見えないけど、ここだとちゃんと『満天の星空』っていうのがあるんだっていうのが分かった。もちろん、街の方を見るとぼんやり空が明るくなってるのが見えてしまうからもっとすごい星空が見えるところも他にあるっていうのは分かってる。だけど、普段、僕たちが見てる星空に比べれば十分に綺麗だと思ったんだ。


夢中になってみんなで星を見上げてると、波多野さんが言った。


「こうやって星を見上げてると、私たちがごちゃごちゃやってることなんてホントにちっちゃいことなんだなって思うよな…。


でも、こうも思うんだ。星だってこうやっていくつも集まるからもっと綺麗って思えるんだし、私たちもこうやって集まってるから楽しい時間も過ごせるんだろうなって。


すごく実感がある…。私、一人じゃ何もできなかったって…。みんなのおかげでこうやって笑ってられるんだって……。


ホント、ドラマのセリフみたいで恥ずかしいけどさ……。


みんな、ありがとう……」


見ると、波多野さんが空を見上げたままボロボロと涙を流してるのが分かった。だけどみんな、そのことには何も言わなくて、星空を見てた。星空を見てるふりをしてただけかもしれないけど。


星谷さんが今回のことを計画したのは、このためだったんだなっていうのがすごく分かった気がした。一番は波多野さんのためにっていうことだったんだと思う。こうやってみんなで一緒に楽しんで、波多野さんが一人じゃないってことを伝えるために。僕たちはあくまでそれに便乗させてもらっただけ。でも、それでいい。こんな風にしてるだけでも波多野さんのためになるんなら、それが何よりだと思う。


波多野さんのお兄さんの裁判については、たぶん、これから何年もかかる気がする。裁判が終わったとしても、それからお兄さんがちゃんと自分のやったことに向き合えるようにならないと本当のことは何も解決しないっていう風にも感じる。だから波多野さんの闘いは、むしろこれからが本番なんだろうな。バラバラになってしまった家族のこととかもそうだし。


でも、人生っていうのはやっぱりそういうもんなんだとも思えた。苦しいことが続く時期があっても、その中ででもこうやってみんなと一緒に笑うことだってできる。それをちゃんと波多野さんに示してあげられれば、それが力になるんだろうなってね。



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