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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百十七 「どんぐりとピザ」

アンナさんは、本当はこの別荘の管理人の娘さんということだった。でも実際にこうして現場で建物を管理しているのはアンナさんだから、実質的な管理人さんでもあるらしい。


そして星谷さんたちが招待したゲストを歓待するのもアンナさんの仕事で、お客さんのお子さんに自然の遊びを教えるのも役目らしかった。


だから、工具のドライバーみたいな小さなドリルを使ってどんぐりに穴をあけ、竹ひごを通して独楽こまややじろべえを作るのもお手の物なんだって。


「外国のお客様もそうですが、今は日本の方でもこういう遊びをご存知ない方も多くいらっしゃって、結構ウケるんですよ」


笑顔でそう説明してくれるアンナさんに僕はただただ感心してた。確かに、僕の世代でももうどんぐりで遊んだことがないって人も少なくない気がする。僕自身、ほとんど遊んだ記憶がない。学校の行事か何かで出掛けた先で作らされたような記憶がうっすらとあるだけだった。


だけど、こうやってどんぐりで遊ぶのって単純に楽しいんだろうな。波多野さんやイチコさん、田上たのうえさんだけじゃなくて、玲那まで夢中になってどんぐりで独楽を作ったりしてた。


特に千早ちゃんは、何か発想を得たのか、ひたすらどんぐりを短く切った竹ひごで連結させて、複雑な形をしたものを作っていってた。それはみるみる大きくなって、あっという間にラグビーボール型の不思議な感じのするオブジェになってた。


「それは何ですか?、千早」


星谷さんがそう聞くと、


「分かんない!」


って、千早ちゃんははっきりと応えた。


「分かんないけど面白い!」


だって。


きっと、千早ちゃんの心の中に浮かんだ何かが形になったものなんだろうなと僕は思った。無数の竹ひごでそれぞれのどんぐりが繋ぎ合わされたそれを見ていると、何となく人の繋がりを表しているような気もしてくる。どんぐりの一つ一つが『人』で、複雑に繋がり合って形を作ってるのかもしれないって僕には思えた。


そうだ。このどんぐりは、千早ちゃんだったり星谷さんだったり沙奈子だったり大希ひろきくんだったり波多野さんだったりイチコさんだったり田上さんだったり山仁やまひとさんだったり僕だったり絵里奈だったり玲那だったり千早ちゃんのお姉さんだったりお母さんだったりするのかもしれないって。


もしかしたら全然違うのかもしれないけど、僕にはそう見えたんだ。たくさんの人が人を介して繋がり合って形作っている、社会とか世界とかいうもの自体を表現してるような気もした。


千早ちゃんが言った。


「そうだ!、これを夏休みの工作にしよっと!」


なるほど。この何とも言えない存在感を持つ『何か』は、ちょっと芸術作品のようにも見える立派なオブジェだ。


と思ったら、大希くんは大希くんで、千早ちゃんと同じような作り方でロボットのような形を作ってた、しかもけっこう大きい。高さだけでも三十センチはありそうだ。


「ヒロ、すっごい!。よ~し!、私も負けてらんない!!」


と言いながら、千早ちゃんはさらにどんぐりを連結させていった。


どうやら大希くんもこれを夏休みの工作にするみたいだ。


「じゃあ、壊れないように接着剤でしっかりと補強しましょう」


アンナさんがそう言って、接着剤を出してきてくれた。いつもそうしてるんだろうなっていう用意のよさだった。


他のみんなはと見ると、波多野さんと田上さんは意外と堅実に独楽とやじろべえをいくつも作ってて、イチコさんはどんぐりに穴を貫通させてそこにひもを通してネックレスのような数珠のようなものを作ってた。玲那は平べったい形でどんぐりを竹ひごで連結させて、丸い鍋敷きのようなものを作ってた。千早ちゃんの作ってるものの方が立体な分だけ存在感があるけど、形はもしかしたら玲那のそれの方が綺麗かもしれない。


で、沙奈子はと言うと、いつの間にかつやつやで綺麗な形のどんぐりを並べてそれをうっとりと見入ってた。何だか、宝石を並べてるようにも見えた。そういう意味では一番女の子っぽい遊び方だった気もする。


みんながそうやって夢中になっているといつの間にかアンナさんの姿が見えなくなってた。すると星谷さんが言った。


「そろそろアンナがお昼の用意を始めてるはずです。石窯でピザを焼くので、もしよかったらその様子を見に行きますか?」


「え?。見る見る!、見たい!!」


千早ちゃんがどんぐりと竹ひごをテーブルの上に置いて、立ち上がった。


「沙奈!、ヒロ!、ピザ焼くとこ見に行こ!!」


そう音頭を取って、沙奈子と大希くんを引っ張っていく。やっぱり、三人の中では千早ちゃんが牽引役なんだなって思えた。でも、悪くない。沙奈子も大希くんも嫌がってないからね。


石窯があるというテラスへ出ると、アンナさんの姿もあった。その前に、僕が想像していた以上に大きくて立派な石窯があった。離れてても熱気が伝わってくる。その中では既に、ピザが焼かれてるみたいだった。アンナさんが長いヘラのようなものを何度も挿し入れては覗き込んでた。ピザの焼き具合を調節してるのかなと思った。


「うお~っ!」


その様子を見て、千早ちゃんが唸るような声を出した。感心してると言うか興奮してると言うかって感じかな。


「去年も見たけど、やっぱすごいね」


波多野さんがアンナさんの姿を見ながらそう言った。


「ホントにすごいですね」


絵里奈が僕の隣で呟くと、玲那も「うんうん」と頷いてた。僕も「ホントだね」としか言えなかった。


真剣な表情で石窯に向かってるアンナさんの姿は、汗が光ってて格好いいって言ってもいいんじゃないかなって気がした。やがて、テラスに置かれたテーブルの上に、大きなピザが姿を現すと、「お~っ!」って歓声が上がった。そしてピザは次々と焼き上がって、テラスでお昼を食べることになった。本当にすごい。


こんな風に食事をすることになるなんて、驚きしかない。飲み物とかを用意してくれたアンナさんの姿は、さっきまでの石窯に向かってた時のとは違って涼しげな笑顔になってた。汗もかいてないし髪の毛も整ってる。飲み物を用意するその時にささっと直したんだろうな。まさしくプロの姿って感じかもしれない。


「美味しい!。なになにこれ?。え?、いつものピザと全然違う!」


アンナさんのピザを一口食べた千早ちゃんが叫ぶみたいにして言った。


「落ち着いて、千早。行儀が悪いですよ」


そうたしなめた星谷さんだったけど、その顔はどこか嬉しそうにも見えた。そんな風に叫ばずにいられないくらいに喜んでもらえたのが嬉しかったんだろうな。


「でも、ホントに美味しいですよね。千早ちゃんが興奮するのも分かります…!」


なんて、絵里奈も声を上げてたし、玲那なんて夢中でピザを食べてた。


沙奈子も、美味しそうにピザを口に運んでたのだった。



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