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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百十六 「どんぐり拾い」

星谷ひかりたにさんの別荘で迎えた朝。それは何というか、映画の中で出てきそうなおしゃれな感じだった気がする。真っ白なテーブルクロスの上に並べられた朝食がまたすごく綺麗でおしゃれで、正直、場違いな感じさえしてしまった。だけど波多野さんが、


「うひょ~っ!、美味しそ~」


って声を上げてくれて、僕たちは少しホッとできた気がした。彼女の気取らない朗らかな感じがすごくありがたかった。


「寛いでいただけたらいいですよ。皆さんそうしていただいています」


星谷さんにもそう言ってもらえて助かった。だけど同時に、自分達がとことん庶民感覚なんだなっていうのを思い知らされたりもした。


何となくふわふわした気分だったのがようやく落ち着いてきて、家族四人が揃ってることを改めて実感できてきた。


沙奈子と、絵里奈と、玲那の顔を見て、思わず頬が緩んでしまった。すると絵里奈と玲那もそんな感じだった。もちろん沙奈子も嬉しそうな顔をしてるのが分かった。


朝食が終わるといったん部屋に戻って寛いだ。


「なんだか夢みたいですね」


絵里奈が呟くみたいにしてそう言った。玲那が「うんうん」と大きく頷いてた。僕もそう思ってた。


「だけど、夢じゃないよ」


三人を見詰めながら、僕は言った。沙奈子も、絵里奈も、玲那も頷いてくれた。こうして家族が揃ったことを、僕たちは噛み締めてた。


今は一時的に集まってるだけでも、いつかはまたこうして四人が一緒にいるのが普通になる。それまで頑張らなくちゃと改めて思った。


「何だか外が気持ち良さそうですよね。散歩とかいいかも」


窓の方を見て絵里奈が言うから、


「じゃあ、少し散歩してこようか」


ってことになった。


「散歩してきても大丈夫ですか?」


リビングにいた星谷さんに声を掛けると、


「ええ、どうぞ。気持ちいいですよ」


と応えてくれた。


洋館の外に出ると、そこは本当にのどかな光景だった。洋館のあるところは木々に囲まれてるけど、少し歩けば開けた景色になって、ゆるくふいてる風も爽やかな気がする。その中を四人でゆっくりと散歩した。


沙奈子は絵里奈と手を繋いで前を歩いて、僕と玲那がそれについていく感じで歩く。


ほとんど人の姿も見えないから大丈夫だとは思いつつ、念の為に玲那は幅広の帽子を被ってすぐに顔を隠せるようにしてた。


あまり遠くまで行くと迷うかなと心配しつつ、でも振り返ると遮るものが何もないから星谷さんの洋館が建ってる木立ちがしっかり見えてて安心した。それでもあまり遠くにってもと思って十分くらい歩いたところで、もと来た道を引き返した。


そこまで結局、誰ともすれ違うこともなかった。


「なんか、ホッとしますね」


絵里奈が振り返って声を掛けてくる。沙奈子もすごく穏やかな顔をしてた。


「本当だね」と応えながら玲那を見ると、彼女も微笑んでた。こんなにのんびりした感じになるのは本当に久しぶりかもしれない。いつもはどうしても、玲那のことを気付かれたらっていうのを心のどこかで意識してたから。玲那のことで声を掛けられたりしたらどう応えたらいいかっていうのを用意してたりしたから。


帰りはもう一つゆっくり歩いて、結局三十分くらいの散歩になった。気持ち良かった。


「もし機会があったら三千院とかにも行ってみたいですね」


そんな絵里奈の言葉にも、確かにと僕は頷いた。


洋館に戻ると、今度は千早ちはやちゃんが、


「ねえねえ、屋敷の周りを見てきていい?」


と星谷さんに聞いてた。


「いいですけど、遠くには行かないでくださいね。携帯は持ってますか? 充電は十分ですか? 電源は切らないでくださいね」


星谷さんの言葉に、千早ちゃんは、彼女に買ってもらったというスマホを見せながら、


「これで大丈夫だよね?」


と確認してもらってた。言われたことをちゃんと気にするんだな。


「沙奈も一緒に行こ?。ヒロも一緒に来るって」


千早ちゃんに言われて、沙奈子は僕の顔を見た。


「いいよ。でも、危ないことはしないようにね」


危ないことはしないのは分かってるけど、一応、そう言わせてもらって、子供たちを見送った。でも、洋館のすぐ横で三人ともしゃがみ込んで、何かを拾い始める。どんぐりだった。どんぐり拾いを始めたんだと分かった。なるほど、見ればあちこちに手付かずのどんぐりがたくさん落ちてるのが分かる。子供たちにとってはそれで十分に遊びになるってことか。


星谷さんは自分のスマホを確認して、


「ちゃんとGPSは効いてますね」


だって。千早ちゃんのスマホのGPSを表示させてるんだと分かった。さすがにしっかりしてるなあ。


だけど三人は、そんな備えも必要ないくらい、洋館の中にいても三人の声が届くくらいすぐそばでずっとどんぐり拾いをしてたみたいだった。それでも十分に遊びになるほどどんぐりは豊富に落ちてた。


「うおっ!、でっけぇどんぐり!!」


叫ぶみたいな千早ちゃんの声が、ちゃんとリビングにまで聞こえてきて、安心する。


ここで大きく冒険をしないこの子たちを、『小さくまとまってる』とか『つまらない』とか言う人もいるかもしれない。でも僕は、無謀な冒険をすることばかりが大事だとは思わない。こうやってすぐ近くの自分たちの足元で楽しいものを見付けられるというのも才能だと思うんだ。遠くを見る人ばかりが持て囃されるというのも何か違う気がする。


冒険に出なくてもこの子たちは十分に立派だし、才能を感じてる。それで十分なんじゃないかな。


なんて思ってたら、


「ぎゃーっ!、毛虫ーっ!!。沙奈、気を付けろーっ!!」


だって。うん、すごく楽しそうだ。しかも、ちゃんと沙奈子のことを気遣ってくれてる。本当に優しい子だと思う。こんな優しい子が沙奈子にきつく当たらずにいられなかったとか、やっぱり状況に問題があったんだって感じる。


と、楽しそうな千早ちゃんたちの様子に誘われたのか、波多野さんとイチコさんと田上たのうえさんまでどんぐり拾いに参加したみたいで、ワイワイと賑やかな感じになってきた。


「どわっ!!、ヘビ!?。って、木の枝かよ。あー、びっくりした」


って波多野さんが声を上げると、


「え~?、ヘビさん見たかったのに~。残念」


ってイチコさんが言ってたのも聞こえた。そう言えば、イチコさんも沙奈子と同じでヘビとか好きだったんだっけ。


そうこうしてるうちに、結局、玲那まで混ざってしまってた。


たぶん、こんな風に他の子たちと一緒にどんぐりを拾って遊んだりできなかったあの子にとっては、今こそが子供時代なんだろうな。


そんな感じでみんなで拾ったどんぐりを、アンナさんがちょいちょいと加工して、独楽こまややじろべえにしてくれた。


「うお~っ!、すっげえ~っ!!」


テーブルの上で回るどんぐりの独楽を見た千早ちゃんが、興奮して声を上げたのだった。



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