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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百十五 「久しぶりの夜」

みんなでゲームで楽しんだ後、僕たちはそれぞれの部屋に分かれて休むことになった。沙奈子が眠そうにしてたから余計にね。


久しぶりの、家族水入らずだった。


『う~、やっとみんなで一緒に寝られるよ~。嬉しい~』


玲那がそうメッセージを送ってきた。


『ねえねえ、お父さんの横で寝ていい?』


「もちろん。僕も玲那と一緒に寝たいよ」


玲那の言葉に僕がそう応えると、沙奈子も大きく頷いた。沙奈子にとってもそうして欲しいと思ってるみたいだった。だから以前と同じように、玲那、僕、沙奈子、絵里奈の並びで一緒に寝ることになった。


正直、それが一番いいと僕も思った。だって、もし、絵里奈と触れ合って寝たらいろいろ我慢できなくなりそうで不安だったし。


そうなんだ。沙奈子や玲那と触れ合っててもそんな気には全くならないのに、絵里奈と触れ合ってるとダメなんだよな。そういうことだって自分でも受け入れてはいるんだけど、不思議だ。すると玲那がまたメッセージを送ってきた。


『お父さん。もしよかったら、今度、絵里奈と二人きりでデートする?』


だって。もう、この子は~…。


「ありがとう。でも、そんな気を遣いすぎないでいいよ。それに、ねえ…」


と言いつつ、絵里奈と顔を合わせてしまう。絵里奈の顔も赤くなってたし、僕も自分の顔が熱くなってるのを感じてた。


もちろん、絵里奈ともっと触れ合いたい、彼女が欲しいっていう気持ちはある。だけど今は、そういう気持ちばかり優先するわけにはいかないんだ。それもし、子供ができたりしたら今の状態だといろいろ問題もあるし。


実は、絵里奈ともそういうことで話をしてた。


『もし、赤ちゃんができたら私は産みます。いたるさんとは一緒には暮らせなくても、玲那に手伝ってもらってちゃんと育てます。


以前は、こんな風に言えませんでした。自分に子供が育てられるのか全然自信がありませんでした。でも今は、大丈夫です。沙奈子ちゃんのおかげで自信がつきました。それに、ビデオ通話ですぐに相談もできますから、不安はありません。


しかも、玲那が言ってくれてるんですよ。『早く赤ちゃんほしいね』って。玲那にとっては妹とか弟っていう感じだと思います。家族が増えるのを玲那も望んでるんです』


って。絵里奈はそう言ってくれるけど、現実問題としてやっぱり大変だと思う。だから、たまたまできてしまったらそのまま産むことになるとしても、積極的に作れる状態じゃないっていうのはわきまえておかないといけないって思うんだ。


ただその代わり、一緒に住めるようになったら、すぐにも欲しいなって、実は僕も思ってたりする。何しろ、想像するだけでワクワクするんだ。僕と絵里奈の赤ちゃんを抱いてる自分を想像するだけで。


沙奈子にも聞いてる。


『妹とか弟とか、欲しい?』


そしたら間髪入れずに『欲しい』って応えてくれた。もし不安があったらそんな風に言わないと思う。沙奈子自身、弟妹が来てくれることを期待してるんだ。


だから、もう、ちょっとしたはずみで赤ちゃんが来てしまう状態なんだと思う。だからって考えなしにっていうのはさすがにマズいとも思ってるんだ。


だけど、今日のところはそういうの抜きで、久しぶりの一緒の時間をゆっくりと味わいたかった。


和室の部屋をあてがってもらってそこに布団を二組敷いて、僕たちは寄り添うようにして横になった。沙奈子も玲那もすごく嬉しそうだった。もちろん、僕も絵里奈も嬉しかった。


「おとーさん」


ちゃんとした声じゃない、息が漏れるだけの音だったけど、玲那が確かにそう言ったのが僕には分かった。


そうだ。僕にはちゃんと聞き取れる。玲那の言葉が。あまり複雑なのはさすがに難しいけど、一言二言ならね。


僕にぴったりとくっついてくる玲那に、僕も頭を寄せていた。すると頬にキスをしてくる。『おやすみのキス』だ。すると沙奈子も、僕の頬にキスしてきた。だから僕も、沙奈子と玲那の額にキスを返した。


「ん~っ!」


って感じで、玲那が見悶える。嬉しくて嬉しくて仕方ないって感じだった。沙奈子は絵里奈にも『おやすみのキス』をして、胸に顔をうずめてた。久しぶりの感触に、沙奈子も嬉しくてたまらないって感じなんだろうな。


こんな機会を作ってくれた星谷ひかりたにさんには感謝しかなかった。ここなら人目を気にすることもない。余計なことを言ってくる人もまずいない。本当に何よりだった。


ふと思う。千早ちゃんももしかしたらこんな風にしてるのかもしれないなって。確か、千早ちゃんは星谷さんと同じ部屋だったはずだし。


星谷さん自身は本音では大希ひろきくんと一緒の部屋が良かったのかもしれないけど、その辺りはさすがにわきまえてるらしかった。大希くんはイチコさんと、波多野さんは田上たのうえさんと、一緒の部屋になったらしい。


本当は、波多野さんもこんな感じで甘えられる相手がいたら良かったんだろうな。だけど今のところそういう相手がいないんだから、それは仕方ないのか。それに波多野さんは男性に対しては不信感があるらしい。僕や山仁やまひとさんや大希くんの前では平気そうにしてるけど、他の男性が近くにいるとすごく警戒して険しい顔になることもあるって聞いた。そう言えば、バスに乗ってた時とか水族館に行ってた時にも、男性の傍には近付かなかった気がする。事情を考えたら仕方ないんだろうけど、大変だなとも思ってしまった。


そんなことも考えつつ、今は四人一緒のこの状況に癒されながら、僕は眠りに落ちていったのだった。




翌朝。目が覚めると知らない部屋だったことに一瞬戸惑って、『あ、そうか、星谷さんの別荘に来てたんだ』と思い出して胸を撫で下ろしたりしてしまった。


「え…?」


沙奈子も何か呆然とした感じで僕を見てた。状況が掴めなくて戸惑ってるんだと思った。でも、しばらくして「あ…!」って顔になった。僕と全く同じことしてる。


絵里奈と玲那も起きてきて、四人で「おはよう」って挨拶を交わした。


「おはようございます」


取り敢えず顔を洗って歯磨きとかしようと思って部屋を出たら、アンナさんがいた。


「もうすぐ朝食の用意ができます。よろしければダイニングにお越しください」


だって。こんな朝早くから朝食の用意をしてたんだな大変な仕事だなあ。って言うか、いつ寝てるんだろうと心配になってしまった。


だけど僕がそれを心配しても仕方ないのか。


アンナさんに言われた通り、顔を洗って歯磨きした後で、僕たちはダイニングに行った。そこにはブレッドとかベーコンエッグとか、いかにもな朝食って感じのがテーブルの上に用意されてた。


「とにかく座りましょう」


絵里奈に言われてようやく席に着いたら、星谷さんたちも続々とダイニングに現れたのだった。



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