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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百十四 「玲那の告白」

大希ひろきくんと一緒の露天風呂を終えて、僕と大希くんはみんなが集まってたリビングに戻った。すると、玲那と波多野さんと千早ちゃんとイチコさんと田上たのうえさんとでゲームをしてた。


「僕も僕も!」


大希くんがそれを見るなりコントローラーを持って参加する。みんなで一緒にできるタイプの短いゲームだったからすぐに始められた。


沙奈子は絵里奈に甘えるように一緒にソファーに座ってた。そこに僕も座る。


「沙奈子は見てるだけでいいの?」


「うん」


答は分かってたけど、一応聞いてみたんだ。沙奈子は一緒にわいわい騒ぐのは苦手だからね。でも、みんなが楽しそうにしてるのを見てるのは好きみたいだ。


「なんだか、こんな風にしてるのが嘘みたいですね…」


絵里奈が不意に呟くように言った。これに僕も共感してしまう。


「そうだね。僕もこんな風に他の人と一緒に別荘に泊まるとか、去年までは想像もしてなかった。って言うか、他人と関わるのも嫌だったもんな。


沙奈子が僕のところに来てくれたから絵里奈や玲那とも話ができるようになって、それがいつの間にかここまでになってた。全部、沙奈子のおかげだよ。ありがとう……」


そう言いながら、僕は沙奈子の頭を撫でていた。彼女も、少し照れくさそうな顔をしながら僕を見てくれてた。それから絵里奈を見詰め合ったら、つい、沙奈子越しに唇を触れさせてしまってた。


さすがにこれはどうかと思ってハッとなって、絵里奈と二人して沙奈子のことを見てしまった。でもそんな僕と絵里奈を、彼女は嬉しそうに見てた。だから、僕たちの娘を一緒にぎゅっと抱きしめた。


「お父さん…、お母さん……」


僕と絵里奈に抱き締められながら、沙奈子は小さく声を漏らした。それがまた愛おしくて、ぎゅーって抱き締めてしまう。


波多野さんたちはゲームに夢中で見てなかったけど、星谷ひかりたにさんは気付いてたみたいだった。ソファーに座り直した時に目が合ってしまって、ふわっとした感じで微笑みかけられてしまった。


だけどそれは僕たちのことをバカにして笑ってたんじゃないっていうのは何故か分かった。どちらかと言えば羨ましそうに見てた気がする。幼い頃、仕事が忙しいご両親とすれ違いになってしまってたことが思い出されたのかもしれないっていう気がした。


そんな僕たちとは対照的に、玲那は波多野さんたちと本気でゲームを楽しんでた。今年で27歳のはずだから十歳も年上のはずなのに、一緒になってはしゃいでる姿は完全に同年代の女の子って感じだった。それがすごく幸せそうで、僕は込み上げるものを感じてしまった。というのも、最近、昔のことについて少しずつ話してくれるようになったんだ。


『私がお客を取らされたのは、十歳の時だった。


でも、あの頃のことは本当はすごく記憶も曖昧で、実際にあったことなのかどうか分からないことも多いんだ。


だけど、仕事が嫌で泣いてばかりだったのは事実だと思う。


いっつもいっつも、早く終わってくれることばかり願ってた。


エッチな漫画とかだと、ちっちゃい子でも気持ちよくなれるみたいなのが多いらしいけど、私はそんなこと全然なかった。いつも痛くて苦しくて、気持ち悪いだけだった。


だからお父さんとそういう関係になりたいと思ったことはなかったんだ。でも、お父さんのことは本当に好き。もしかしたらお父さんとだったらって思ったことはある。


でもでも、お父さんが絵里奈と結婚してくれたのが嬉しかったのもホント』


そうやってメッセージを送ってきてた玲那は、いつも縋るような目で僕を見てた。僕も、そんな玲那を見てた。ある時、彼女は、こんなことを言ったこともある。


『お父さん。お父さんは私みたいな子、気持ち悪かったりしない…?』


その質問の意味がすぐに理解できなかった僕に、玲那は説明してくれたんだ。


『男の人って、経験済みの女の子を『中古』とか『お古』とか言って毛嫌いするっていうのを聞いたことがあるんだ。


他の男が触った女なんか気持ち悪いって。


私は、もう、何人の男の人に触られてきたのか自分でも覚えてない。


そんな女の子でも、お父さんは気持ち悪くない…?』


涙を浮かべてそう聞いてきた玲那に、僕はきっぱりと言った。


『自分の娘を気持ち悪いとか言う父親なんて、僕は嫌いだよ。僕は玲那のことが好きだ。すごく大事なんだ。気持ち悪いとか思ってたら、こんな風に思えないんじゃないかな。


昔に何があったかなんて関係ない。僕にとって玲那は玲那なんだよ。経験してきたことの全部をひっくるめて玲那なんだ』


人形のギャラリーに併設された喫茶スペースで、玲那は顔を覆って声を出さずに泣いてた。周りのお客さんたちに見られてた気がするけど、気にならなかった。僕はただ、彼女を全てを受け止めたかっただけだったから。


それから、別の日にはこんなことも言ってたな。


『お客を取らされてた頃、ひーちゃんだけが私に優しくしてくれてた。


守ってはくれなかったかもしれないけど、ひーちゃんだって私と同じ子供だったから、それは仕方なかったと思う。


でも、ひーちゃんがいてくれたから私はまだ何とかなってた気がするんだ。


それで、就職してから絵里奈と香保理に出会った時、たぶん私、ひーちゃんのことを思い出してたんだって気がする。


はっきりと思い出してたわけじゃないとは思うけど、何となくではね。


だから香保理に優しくしてもらったことで、心を取り戻せたんじゃないかな。


ひーちゃんに優しくしてもらってた頃まで戻れた気がするんだ。


それからは、普通に友達になっていったんだと思う』


ひーちゃん…、保木仁美やすきひとみさんか。その時に保木さんと出会ってたことも、玲那が今の玲那になれる重要なターニングポイントになってたのかもしれない。


でもその後で、


『だけど、ひーちゃんの名前って、『ひとみ』じゃなかった気がするんだよね。


『ひな』だったか『ひなの』だったか、とにかくそんな名前だったような…。


あ、そうか、源氏名みたいなものか』


だって。


保木さんに会って昔のことをいろいろ思い出してたみたいだ。玲那自身がそれを整理するのに時間が必要だったみたいだから、少しずつ、何回にも分けて話してくれた。僕も一度に受けとめるのは大変だった気がするから、そうやって何回にも分けてくれたのは助かった。


もし、そのことを、あの事件の前に聞いてたら、やっぱり僕は玲那を行かせなかった気がする。僕が、それを聞く勇気を出せなかったことも、あの事件が起こってしまった原因の一つかもしれないって思ってしまう。だから玲那だけに責任があるんじゃない。僕も一緒にあの事件のことは背負っていきたいと改めて思わされたのだった。



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