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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百十三 「露天風呂」

「ふわ~っ……」


洋館に入った途端、沙奈子はそんな風に声を漏らしてた。絵里奈と玲那も感心しながら、何かを探すようにきょろきょろと辺りを見回してた。


「この屋敷は完全に洋風のそれを再現していますので、靴のままおあがりください」


アンナさんにそう言われて、絵里奈と玲那が何を探してたのか僕も気付いてしまった。どこで靴を脱げばいいのか見てしまってたんだ。


「あ、そ、そうなんですね…」


二人とも顔が真っ赤になってた。僕と沙奈子は靴のことを気にする前に部屋の中を見惚れてただけで、先にそれを気にしてた二人の方が冷静だった気がする。


「え?。靴のままでいいの!?」


千早ちはやちゃんも、驚いたみたいに声を上げてた。


「そうなんだよ~、すごいだろ~!」


波多野さんがどこか自慢げにそう言ったけど、ここ、星谷ひかりたにさんの別荘だよね。


「用意はできていますので、すぐにお食事にしていただけますが、いかがなさいますか?」


「あ、じゃあ、先にお食事にしましょうか」


絵里奈が応えると、僕もお腹が減ってきてることに気が付いた。いつもならもう夕食を終えてる時間だもんな。


部屋まで案内されて、まず荷物を降ろしてからダイニングへと向かった。広々としたそこには、お寿司が所狭しと並べられてた。


「皆さん、お寿司が好きだということでしたので、今日のところはお寿司にさせていただきました。本職の寿司職人に来ていただいて用意してもらいましたので、喜んでいただけるといいのですが。


なお、明日の夕食についてはまた何かリクエストがありましたらおっしゃってください」


先にダイニングに来てた星谷さんにそう言われたけど、正直、僕は今の状況で頭がいっぱいになってて、明日の夕食のことまでは考えられる余裕がなかった。


すると玲那がメッセージを送ってきた。


『せっかくこういうところに来たんだから、やっぱりここはフレンチじゃないかな。フレンチっていう雰囲気だと思うんだけど』


なるほど。確かにそうかもしれない。僕には異論はなかった。絵里奈もそうだったらしくて、


「私たちはフレンチでと思うんですが、何かおすすめがあればそれでお任せします」


だって。


「はい、それではフレンチを基本として考えてみましょう」


星谷さんがそう応えてくれた時、他のみんなもダイニングに集まってきた。


「お~っ!、美味しそ~!!」


「お寿司だ~!」


やっぱり波多野さんと千早ちゃんだった。そこにイチコさんと田上たのうえさんも来て、嬉しそうな顔をしてた。


みんなでテーブルについて、さっそく夕食になった。慣れた食事だから安心して気軽に食べられる。でも、お寿司そのものは、食べ慣れた回転寿司とかのそれとは明らかに違ってた。僕もまだ数回しか食べたことのない、<時価>の鮨屋のお寿司だと思った。


「これ、普通に店で食べたらいくらくらいするんでしょうね…」


絵里奈が僕の耳元に顔を寄せてきて、ひそひそとそう聞いてきた。でも僕も全く想像がつかない。数万円じゃきかないんじゃないかなって気がした。


と僕たちがそんなことを話してると、波多野さんが、


「明日のお昼は、ピザがいい。石窯で焼いたやつ。またあれを見たい」


って、給仕の為に控えてたアンナさんに向かってそう言った。


「はい、分かりました。皆さんは何か他にリクエストはありますか?」


波多野さんに向かって応えた後、アンナさんは僕たちの方にも向かってそう聞いてきた。でも、正直、石窯で焼いたピザっていうのが気になって、それ以外は思い付かなかった。


「私たちもピザでいいです」


絵里奈がそう応えると、沙奈子もうんうんと頷いてた。僕も玲那も異論はなかった。イチコさんも田上さんもそれでいいって話になる中で、


「イシガマって何?」


と千早ちゃんが聞いてきた。


「石窯っていうのはね、石とかでできたオーブンなんだよ。それでピザを焼くんだよ。すっごく美味しいよ」


波多野さんが千早ちゃんに向かって説明する。


「何それすごい!、私も見たい!」


結局、全員一致で明日のお昼はピザってことになった。


「承知しました。それでは腕によりをかけてご用意させていただきます」


アンナさんが優しく笑いながらそう言ってくれた。すごい人だなと思った。


それからたくさん並んでたお寿司をみんなで綺麗に食べてしまって、特に千早ちゃんのお腹とかすごいことになってた。


「さ、さすがに食べすぎかな~…」


赤ちゃんでもいるのかって感じになったお腹をさすりながら、千早ちゃんは椅子にもたれる。そんな姿を見ながら星谷さんが、


「あまり無茶をしてはいけませんよ」


と心配そうに見詰めてた。


「お風呂の用意ができてますが、どうなさいますか?。露天風呂と内風呂、どちらも入れます」


アンナさんのその言葉に波多野さんが、


「もちろん、露天風呂だよね~!」


と音頭を取ると、やっぱりみんなで「だよね~」ってなった。沙奈子でさえ乗り気だった。


とは言え、僕はさすがに一緒には入れない。それは大希くんも同じだった。だけど大希くんも露天風呂に入りたいらしくて、


「じゃあ、みんなの後で僕と一緒に入る?」


って聞くと、「うん!」と嬉しそうに応えてくれた。そんなわけで今日は、大希くんと男同士で露天風呂ってことかな。


沙奈子は久しぶりに絵里奈や玲那と一緒にお風呂に入れるっていうことで、すっかりその気になってるし。


さっそくお風呂へと向かった女子組に対して、僕と大希くんはリビングで順番を待つことになった。でも、リビングには、大きなテレビに繋がれたゲーム機があって、待ってる間も全然退屈しなかった。普段、ゲームはあまりやらない僕も、この時ばかりは大希くんに付き合ってゲームを頑張った。でもさすがに、対戦型のゲームをするとまったく手も足も出なかった。やり慣れてるってことなんだろうな。


一時間ぐらいして、ほわほわに茹で上がった女子組がリビングに次々となだれ込んできた。沙奈子も絵里奈も玲那もすっごく満足そうな蕩けた顔でソファーに沈み込んでた。よっぽど楽しかったんだろうなあ。


というわけで、次は僕と大希くんが露天風呂をよばれることになった。二人でゲームをやってる間も、女の子たちのキャーキャーという歓声が届いてたのに比べて、さすがに男二人だけだと静かだった。


でもせっかくだから、話しかけてみる。


「大希くんは、毎日楽しい?」


そんな僕の問い掛けに、彼は「うん、楽しいよ」と躊躇うことなく応えた。そこで僕は思い切って聞いてみた。


「沙奈子のことは、どう思ってる?」


だけどその質問の意図は、うまく伝わらなかったみたいだった。


「アニメ一緒に見てる」


そんな彼の様子に、やっぱりまだ恋愛とかについては全く興味が無いんだろうなっていうのを感じたのだった。



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