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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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四百八 「似てるところ」

もう今までの経験で十分だったのか、絵里奈から説明を受けた沙奈子が監督してる以外は子供たちだけで作ったようなものだった。それについて絵里奈も、


「もう、料理をすること自体の感覚が身についたみたいですね。後は数をこなして慣れていくだけです」


だって。そうなのか。


それでも、僕は事故とかが心配だから完全に任せっきりにはしない。沙奈子がいくら良い子で説明の必要もないくらいに自分のことを自分でできるようになってきてるからって僕の責任が無くなるわけじゃないから。できることはやってもらったらいいけど、もし事故が起こった時にこの子が責任を負えるわけじゃないからね。


沙奈子を信じてないわけじゃないんだ。だけど人間だから失敗することだってあるし、うっかりということだってあると思う。そういう時に責任を負うのが親としての役目だと思ってるんだ。


そうこうしてる間にもオムレツは完成してた。形は少し崩れてるかもしれなくても、ちゃんと美味しかった。でも、千早ちゃんには納得のいく出来じゃなかったらしい。


「う~ん、ちょっと悔しいなあ」


小学生の子が作ってるって思えばこれでも十分すぎるくらいに上手にできてると思うんだけど、こだわるなあ。


ただ、千早ちゃんは、少しせっかちなところもあることで、繊細な力加減とかが苦手な部分もあるらしかった。その辺りは沙奈子の方が得意なのか。逆に、思い切りが必要なところで慎重になりすぎる傾向はあるみたいだけどね、沙奈子には。


そういうのもそれぞれの個性と言うか傾向なのかな。大希ひろきくんはそういう意味では沙奈子に近いかもしれない。


そんな風に頑張るこの子たちの姿を傍で見られるというのも、任せきりにはせずに見守ることの良さとも思う。せっかくだから間近で見ていたいし。


子供たちが一日一日成長していく姿を見るのがこんなに楽しいことだなんて、ホントに想像もしてなかった。人間が成長していくんだ。その様子を見られるっていうのはすごいことなんじゃないかなっていう気もしてる。


今日のオムレツは持って帰るわけじゃなくて、帰ってからまた作るらしかった。その時には上手にできたらいいなと思った。




千早ちゃんたちが帰ると、すぐさま絵里奈と玲那に会いに行くための用意をした。先週行った人形のギャラリーに、今週も行くことになった。新作の人形をもう一度しっかりと見たいんだって。


先週は思わぬ出来事があったけど、今日はできればゆっくりしたいな。


そんなことを思いつつ、沙奈子と一緒にバスに揺られる。


さすがに慣れてきて、バスを降りてからは当たり前みたいに足が向いた。ギャラリーが見えてくると、そこに手を振って僕たちを迎える絵里奈と玲那の姿もあった。


沙奈子と絵里奈はやっぱり人形に夢中だった。だから僕と玲那は喫茶スペースで寛いでた。


『さすがに今日は先週みたいなことないよね?』


玲那がそんなメッセージを送ってくる。


『僕もそう思う』


と返すと、


『でも、こんなこと言ったらフラグになるかな?』


だって。


フィクションではあまりなってほしくないことを口にしたらそれが起こるとかいうのが定番だけど、現実にはそんなことはまず起こらない。たまにその通りになって、それが強く印象付けられてフラグだった気がするっていうことはあるとしても、そういう風に分かりやすく起こるなら、回避することだって難しくないと思う。だけど実際には、いつ、どんな時に、起こってほしくないことが起こるかどうかなんて、誰にも分からないんだ。


それでも、僕はしつこいくらいにフラグというものを立てまくって、逆にそれを陳腐化させるということで自分の気持ちを楽にしようとしてるっていうのはあった。いつもいつも良くない出来事を想像して、でも実際にはそんなこといつも起こるわけじゃなくて、そういう形で安心したいっていうのはあるんだとやっぱり思う。だから僕は言ったんだ。


『大丈夫。僕がフラグを立てまくって陳腐化させたから、きっと何も起こらないよ』


って。すると玲那が、


『お父さん、それもフラグだよ~』


なんてやり取りをしてるうちに、沙奈子と絵里奈もやってきた。四人でお茶をして一緒に時間を味わって、今日のところは帰ることになった。散々、玲那と二人で『フラグだフラグだ』と騒いだからか、今回は本当に何もなかった。平穏なままでアパートに帰ってこれた。


家でビデオ通話の画面を開くと、メイクを落とした絵里奈と玲那が迎えてくれた。時間的に、向こうの方がかなり先に着くからね。


夕食も済ませて山仁やまひとさんのところに行ったけど、今日の話題は、今度の金曜日から行くことになる、星谷ひかりたにさんの別荘のことについてだった。


「一年ぶりか~。またアンナさんの料理が食べれるってことか~。楽しみ~!」


波多野さんがちょっと浮かれた感じでそう声を上げた。だけどその辺りのことを知らない僕たちが呆然としてしまってたのに気付いたみたいで、


「アンナさんっていうのは、ピカの別荘を管理してる人だよ、本物のメイドさんなんだ。料理も上手で、本格的な石窯でピザを焼いてくれたりもするんだ~」


って説明してくれた。それでも僕と絵里奈と玲那は呆気に取られてた気がする。でも僕たち三人の中ではノリの良い玲那が、


『石窯で焼いたピザって、これまで何回食べたことあるかな。美味しそう』


とメッセージを送ってきて参加してた。玲那と波多野さんはノリがちょっと似たところもあるから、割と気が合うらしくてこれまでにも二人だけで話し込んだりということもあった。波多野さんとしては、お兄さんに玲那みたいに潔く罪を認めてほしいという意味での憧れみたいなものもあるらしい。憧れって言うとちょっと変だけど。


「露天風呂もあって、すっごく気持ちいいんだ」


『お~!、それも楽しみ~!』


なんて意気投合してた。


ちなみに絵里奈は、家庭環境とかの点で共通点があるからか、これまであまり目立ったやり取りはしてこなかったけど、田上たのうえさんと少し似てるらしい。そういう感じでも親しみを覚えるようになったことで、今度の別荘がいっそう楽しみになったというのはあると思う。


でも、誰と誰が似てるという話になったら、境遇的には沙奈子と千早ちゃんが似てるんだとは思うけど、僕は何故か、星谷さんにも似てるんじゃないかとも思ってた。クールな感じもありつつ思慮深いところとかが似てる気もする。


しかも、最近の沙奈子からは、何か不思議な力強さみたいなものも感じるんだ。星谷さんには遠く及ばなくても、決して挫けない芯の強さって言うか。


一年前の沙奈子からは、そんなのまったく感じ取れなかったと思う。苦痛に強いとかいう部分も、ただ怖くて従順なふりをしてるだけかと思ってたりもした。それが今は、あの子自身の強さのような気もしてきてるんだ。



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