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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三百九十一 「汗でびしょびしょ」

千早ちはやちゃんたちが帰った後、沙奈子の午後の勉強を見ながら僕は玲那とやり取りをしてた。


星谷ひかりたにさんってホントにすごいね』


玲那のそんなメッセージに僕も、


『僕もそう思う。将来どんな人になるんだろうっていうのも気になるよ。ああいう人が世界とかに出て行って活躍するのかもね』


と返してた。


『そうかも。とにかく普通の人じゃできないことをするんだもんね』


『考えるだけならできる人は多いかも知れなくても、それを実行できる力がある人っていうのはそんなにいない気がする。星谷さんはそれを実行できる人だって僕は思う。玲那の時でも、あんなにいろんなことを実際にやってくれたんだ。その恩は一生かかっても返しきれないかも』


『うん、分かってる。だから波多野さんのこと、私も協力したい』


『そうだね。それが星谷さんへの恩返しにもなるんじゃないかな』


それを改めて確認する。


僕と玲那がそんなやり取りをしてる間に、沙奈子はどんどん夏休みの宿題を進めてた。玲那とのやり取りはいったん中断して、終わったプリントのチェックをしていく。その間に玲那も発送作業に取り掛かってた。


ひと段落付いたところで今度は沙奈子と一緒に買い物に行く。


『いってらっしゃ~い』


と玲那がメッセージを送ってきたけど、スマホのメッセージアプリは繋いだままだ。でも、あの子の方も作業に集中してるんだろうな。信号待ちとかのたびに念の為にチェックするけど、メッセージは届いてなかった。


それにしても暑いなあ。沙奈子にはちゃんと帽子を被ってもらって、ペットボトルの水も持って、水分補給には気を付けた。


「しんどくない?」


時々そうやって声もかける。と同時に表情もちゃんと見る。 この子は我慢強いからちょっとくらい辛くても我慢してしまうかもしれないからね。「大丈夫」っていう返事だけじゃなく、顔とか仕草とかでも見なくちゃっていつも思う。


買い物を終えて帰ってくると、僕も沙奈子も汗だくだった。エアコンは付けたままで行ったから部屋は涼しいけど、汗が気持ち悪い。


「水浴びしようか?」


昨日に引き続いてそう聞いてみる。すると「うん!」と頷きながら沙奈子は服を脱ぎだした。僕も続いて服を脱いで、それを洗濯機に放り込んでお風呂に入る。


慣らすために足元から水を掛けると、やっぱり「きゃあっ」って声を上げながら彼女がバタバタと足をばたつかせた。その様子が可愛くて、顔が緩んでしまうのを感じた。でも同時にこの子が成長してるんだっていうのも感じ取れた。見た感じそのものが去年とは明らかに違ってる。それがまた嬉しくて、結局、頬が緩んでしまう。


自分の体の変化についても、どうやら慣れてきたらしい。以前ほど恥ずかしがってる様子もなくなってきた気がする。ひょっとしたらそういうのに慣れてしまわない方がいいのかもと思いつつも、こういうことも変に意識しないでいられるのは助かるとも思えた。それでこの子との間に距離ができて素直に話とかできなくなるのは困る。せめて絵里奈や玲那と一緒に暮らせるようになるまでは。


絵里奈や玲那と一緒に暮らし始めたら、僕とは今まで通りにできなくても、女性同士で性の話とか恋の話とかできると思うし。そうなったらそうなったで寂しいなあと思いつつ、そういうものだろうからねって自分に言い聞かせた。


水浴びで汗を流してお風呂場から出ると、エアコンが効いてる室内はさすがにちょっと寒かった。急いで部屋着に着替えて寛ぐ。ビデオ通話を繋いで玲那が画面に映ると、『おかえり』ってメッセージを送ってくれた。


沙奈子と一緒に「ただいま」って応えたら、玲那は何かに気付いたみたいに「ん?」って顔になってまたメッセージを送ってきた。


『また一緒に水浴びとかした?』


僕と沙奈子の髪の毛が濡れてるのを見てピンときたみたいだ。「うん」って正直に応えると、


『ズルい!、二人だけでズルい!、私もお父さんと水浴びした~い!!』


だって。これには苦笑いするしかなかった。もちろん、半分冗談なのは分かってる。だけどもう半分は本気だっていうのも感じてた。僕に甘えたいんだろうな。それに応えてあげられないもどかしさも感じつつ、そういう部分は絵里奈が補ってくれてるっていうのもあるから助かってる。


「なにしてんの?」


玲那が身悶えて変な動きしてるところに、絵里奈が帰ってきた。ちょっと引いてるっぽい顔で映ってる。その絵里奈に玲那が抱き着いていくと、


「あ~!、やめて!、汗でびしょびしょなの!、抱き着かないで、汗がびちょってなって気持ち悪いから~!!」


って、殆ど悲鳴みたいな絵里奈の叫び声が。


さらに画面の見えないところで、


「分かった分かった一緒にシャワー浴びよ!、ひぃ~っ!、やめてぇ~っ!!」


…何やってんだ…?。まあ、声の様子からすると完全に気持ち悪がってるから、汗でびっしょびしょの服の上から抱き着かれてドン引き状態なんだろうなっていうのは想像付いた。少なくともセクシーな状態ではないと思う。


沙奈子も呆気に取られてる。ホントに困ったお姉ちゃんだなあ。


そんなこんなで静かになって、15分ほどして戻ってきた玲那の顔が、すっきりした感じになってた。髪も濡れてるし、絵里奈と一緒にシャワーを浴びてきたんだろうな。時間は短かったから、たぶんシャワーだけなんだと思う。たぶん…。


絵里奈も髪をタオルでまとめてすっぴんになって改めて「ただいま」って言ってきた。「おかえり」って沙奈子と声を揃えて迎える。キスの仕草をすると、彼女も返してきた。


それからは四人でまったり寛ぐ。寛ぎながらも沙奈子と絵里奈はドレス作りに集中して、玲那もまた発送作業に集中してた。


夕食はハンバーグ。それから山仁さんの家に行く。明日からは朝から夕方まで沙奈子がお世話になるから、改めてご挨拶しておかなくちゃね。


夕方でもまだ暑い。行って帰ってくるだけでも汗をかきそうだ。帰ったらまずお風呂かな。


千早ちゃんと大希くんに沙奈子を任せて、二階に上がる。波多野さんの様子は落ち着いてるように見えた。山仁さんには、明日から朝一で沙奈子がずっとお世話になることをお礼をする。


「大希の相手をしてもらえてますからこちらも助かってます」


といつものように言ってもらえた。こうやって子供を預かってもらえるところがあるというのは本当に助かる。僕もそういう形でいつか役に立てたらいいんだけどな。


会合の方は、「暑いね~」みたいな雑談だけで終わってしまった。波多野さんが落ち着いてるからそれだけでいいってことなんだろうな。


沙奈子を連れてアパートに帰ると、案の定、結構汗をかいてた。お風呂を沸かしてすぐに入る。それが気持ちよくてホッとしてた僕たちなのだった。



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