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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三百八十八 「水浴び」

駅前からみんなで歩いて帰る途中、裁判のこととかについて少し話をした。そして今日はこうして話ができたんだから改めて集まる必要はないということで、夕方の会合は無しってことになった。玲那のことと波多野さんのお兄さんのことがあって集まるようになってから初めての完全なお休みだった。たまにはこういうのもいいよね。


山仁さんの家の近くで別れて、僕と沙奈子はそのままアパートへと帰った。ドアを開けると、もわっていう熱気が中から溢れてきて思わずひるんでしまった。


「こりゃダメだ。沙奈子、もしよかったら水浴びでもする?」


部屋に入った途端に余計に汗が噴き出てきて、僕は沙奈子にそう聞いた。


「うん!」


って彼女も頷いたから、エアコンのスイッチを入れてから二人でその場で素っ裸になって服は洗濯機に放り込んで、お風呂場に飛び込んだ。


シャワーで水を出し、沙奈子の足にかけてあげる。すると彼女は「ひゃんっ!」って声を上げて足をバタバタさせた。去年、同じように水浴びした時ほどきゃあきゃあ騒ぐ感じじゃなかったけど、最近では珍しいその様子に、僕も思わず顔がほころんだ。


学校では『ロボちゃん』なんて呼ばれることもあるくらい無表情なこの子だけど、僕の前ではこうやっていろんな表情を見せてくれるようになってきてると思う。大丈夫だ。沙奈子は順調に回復してるって気がする。


二人で頭からシャワーを浴びて汗を流して、体が冷めてきたのを感じて体をふいてお風呂場から出た。すると今度は、エアコンが効き始めた部屋が少し寒く感じられてしまった。だから急いで部屋着に着替えて、ようやくホッと一息ついた。


「ちょっと疲れたけど、楽しかったね」


部屋着を着てちょうどいい感じになってきたところで、僕は沙奈子に話し掛けた。彼女も「うん」って頷きながら嬉しそうな顔をしてた。僕にはそれがちゃんと笑顔に見えた。


ビデオ通話を繋ぐと、テレビの画面の中に素っ裸の玲那の姿が見えた。ああもう、この子はまた。


「玲那玲那、はだか!」


僕が声を掛けると、「うひょ!?」って感じの変なリアクションを取って玲那が画面から消えた。代わりにTシャツを着て髪をタオルでまとめたすっぴんの絵里奈が画面に入ってきた。向こうもシャワーとか浴びてたんだろうな。


「ただいま」


「ただいま」


そう言葉を交わすと、お互いに顔が緩むのが分かった。そのまま自然にキスの仕草をする。今日はさすがに千早ちはやちゃんたちが一緒だったからあまりキスできなかったからね。それでも隙を見て何度かしてたけど。


絵里奈の顔も赤くなってるのが分かるし、僕も自分の顔が少し熱くなってるのを感じた。でも沙奈子はそんな僕と絵里奈の様子を見てても冷静だった。でも少し安心したような穏やかな表情になってるのも分かる。僕と絵里奈が仲良さそうにしてるのが嬉しいのかな。


そうこうしてる間に玲那もTシャツを着て戻ってきた。ただ、明らかにブラジャーをしてないのが分かってしまった。


『玲那、ブラジャーは?』


って僕がメッセージを送ると、


『え~?、メンドクサ~イ』


とメッセージが返ってきた。


『サービスだよ、サービス』


続けてそうメッセージを送ってきて、自分の手で胸を持ち上げるような仕草をした。もう、悪乗りしすぎだよ。


なんて思ってたら絵里奈が、


「玲那、調子に乗らない!」


だって。


「イシシ」って感じで笑いながら玲那は頭を掻いてようやく落ち着いたみたいだった。こういうやり取りも、僕たちらしくていいなって感じた。


「今日はみんなで出掛けられたし、会合はお休みだって」


僕がそう告げると、二人も「分かった」って応えてくれた。だから今日はこのままずっと四人で寛ごう。


沙奈子と絵里奈はドレス作りを始めて、玲那は出品物の管理作業に移る。沙奈子のドレス作りの方は佳境に入ってて、もう二~三日中には完成しそうだった。するとその後は、夏休みの工作を兼ねた、小さい方の人形のドレス作りに入る。一気に何着も作って、工作用と出品用を用意する作戦だった。もちろん、夏休みの工作として提出したものも、戻ってきたら出品することになる。


さて、何だかんだと忙しくなりそうだな。


そうだ。来週の土曜日からは僕も夏休みに入ることになるわけで、そうすれば一日中、沙奈子と一緒にいられる。その間に海にも行くことになるけどさ。でもまず来週の土曜日は、イチコさんの誕生日か。カラオケボックスで賑やかにすることになりそうだな。


と言うか、今年は夏休みの日記、書くネタに困ることがないんじゃないかな。逆に、どれを選ぼうか悩むかもしれない。今日のみんなで行った水族館だってすでに夏休みの思い出な訳だし、イチコさんの誕生日パーティーだって盛り上がるだろうし、海には行くし、その後は星谷さんの別荘も控えてる。


確か日記は二枚書くはずだから、順当に考えれば海と別荘のことになるのかなあ。こんな経験、去年までは本当に考えられなかった。人生って、出会いでものすごく変わるんだなって改めて実感する。


それもこれも、みんな沙奈子がもたらしてくれたものなんだな。


ドレス作りに集中してる彼女の後姿を見ながらほっこりしてるうちに夕食を用意する時間になって、今日はなんだかさっぱりしたものが食べたいということでそうめんになった。絵里奈と玲那の方もそうめんにしてた。でもこっちは、付け合わせがプチトマトと煮干しになるのがいつものパターンだった。沙奈子ならもっといろんな工夫ができそうなんだけど、なんとなくそうめんっていうとこの組み合わせになるらしい。たまに煮干しだけで食べたくなるからそれもあるのかもしれない。


「でも、二人でそうやって煮干しを食べてる様子を見てると、父娘だなあって思いますよ。なんかそっくりで」


絵里奈がくすくすと笑いながらそう言う。そうかなあ。そんなに似てるかなあ。


沙奈子を見ると彼女も僕を見てて、なんだかちょっとくすぐったいような感じがしてしまった。叔父と姪だから似てても不思議じゃないんだろうけど、父と娘に見えるって言われるのは素直に嬉しい。僕ももう、この子のことは自分の娘だって思ってるから。


夕食の後はお風呂でのんびりする。昼の水浴びは楽しい感じでも、やっぱりあったかいお風呂は落ち着きたいなあ。


お風呂の後で寛いでると沙奈子が眠そうにし始めたから、今日は早めに寝ることにした。夜の九時過ぎに寝るなんていうのも、さすがに以前は考えられないことだったのに、今じゃ十時には寝てるのが当たり前になってしまった。


横になった途端に寝息を立て始めた沙奈子を胸に抱いて寝る。最近は熱帯夜が続いてるからエアコンは朝までつけっぱなしだ。それは去年もそうだったけどね。それに防犯の点でも窓を開けては寝られないからさ。



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