表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
386/2601

三百八十六 「今度はみんなで水族館」

金曜日。僕もようやく少し落ち着いてきた気がする。


って言うか、当の波多野さんがそんなに感情的になってたわけじゃないのに、僕の方が感情的になってどうするんだよ。今回の裁判はただの通過点だって星谷ひかりたにさんも言ってたじゃないか。僕が熱くなっても仕方ないよね。


ただ、玲那のことも含めて僕もちょっといろいろ溜め込んでしまってたのかもしれない。沙奈子に心配かけちゃ意味がないんだから冷静にならなきゃ。


でも、僕自身が一連の出来事のことをどう考えてるかっていうのが自分でも分かった気がする。自分が思ってるほど割り切れてなかったんだなあ。


自分の未熟さを改めて思い知らされて、僕はそれを胸に刻んだ。


今日の会合は特に何もなくて、静かに終わった。沙奈子と一緒に家に帰って寛いだ。それがすごくしみる気がした。




土曜日。今日は、みんなで水族館に行くことになる。しかも今日から沙奈子たちは夏休みだ。せっかくなので早めに家を出て向こうでゆっくりする計画だ。掃除と洗濯をいつもより急いで済ませて、午前の勉強も早く終わらせて、山仁やまひとさんの家へと向かった。そこからみんなで一緒に駅前のバス停からバスに乗るんだ。


「よっス、よっス!」


山仁さんの家で千早ちはやちゃんがそう出迎えてくれた。朝から元気だった。大希ひろきくんもいつも以上に笑顔でご機嫌な気がする。


イチコさんも波多野さんも田上たのうえさんも、楽しそうだ。


「それじゃ、行きましょうか」


星谷さんが音頭を取って、出発する。そんな僕たちを山仁さんが見送ってくれた。今日はいつもより寝るのが遅くなるらしい。みんなが留守の間に集中して仕事を進めるんだって。大変だなあ。


朝の集団登校のようにみんなで並んで歩いて駅に向かう。十分ほどで駅に着くと、みんなで並んでバスを待つ。この駅が始点だし早めに来たから全員ちゃんと座れたけど、土曜日の午前にしては人が多い気がした。もっとも、普段はこの路線は使わないから普段がどうかはよく知らないけど。


千早ちゃんも大希くんもウキウキした感じの遠足気分っていう雰囲気だった。そのせいか、沙奈子もいつもより身軽そうに見える。スマホで絵里奈と玲那も水族館に向かって移動中だと確認した。


それにしても、今日は、僕、沙奈子、絵里奈、玲那、千早ちゃん、大希くん、星谷さん、イチコさん、波多野さん、田上さんの十人で行動って、昔の僕じゃ考えられないな。出掛けること自体が珍しかったうえに出掛けてもほとんど一人だったし。しかも一応、僕が引率っていうことになるのか。


なんて思ってたけど、実際に水族館で絵里奈と玲那に合流したら、絵里奈がみんなを取り仕切ってた。星谷さんが補佐役で。僕は飾りだったな。


まずは展示を軽く見て回って、千早ちゃんは珍しい生き物に興奮してかなりハイテンションになってた。それを沙奈子と大希くんが抑える感じか。それは波多野さんも同じで、田上さんと星谷さんが抑えてた。でも意外だったのが、イチコさんだった。イチコさんも、沙奈子と玲那がすごく気にしてた、ちょっとグロテスクな感じの、女の子なら普通は嫌いそうなのが気になるみたいで、沙奈子や玲那と一緒に見てることもあった。この三人の組み合わせが新鮮だった。それに比べると、千早ちゃんや波多野さんはまだ女の子っぽい反応をしてた気がする。面白いなあ。


絵里奈は子供達がはぐれないように見ててくれてたけど、星谷さんも協力してくれたから何とかなったみたいだ。僕は正直言って、みんなについていくのがやっとだった。


しばらくそうして見て回って、イルカショーの席取りのためにステージの方へと向かった。今日は先週よりもさらにプールに近いところに席を取れた。ただここまで近いと、水しぶきもかなりのものになりそうだ。まさに真夏の暑さだからむしろ気持ちいいかも知れないけど、スマホとかは濡れすぎに注意しないといけないかもね。


「わぁ~っ!」


ショーが始まると、千早ちゃんが嬉しそうに声を上げた。後で聞いた話だと、こうやって水族館とかに出掛けるのは星谷さんと知り合ってからがほとんどらしい。それ以前に家族で出かけた覚えがないとも言ってたらしかった。


必ず家族で出掛けるべきなんて僕も言わないけど、でも全くないというのも悲しいのかな。僕自身は、千早ちゃんと同じで家族で出掛けた覚えなんかなかったけどね。


イルカショーの方は、渡された笛をみんなで吹くとイルカたちがそれに合わせて動くというものだった。先週来た時もそうだったんだけど、さすがに恥ずかしかったからか、沙奈子は見てるだけだった。だけど今日は、千早ちゃんも大希くんもいて、他のみんなも一緒にやってくれるからか、沙奈子も参加してた。玲那も、声は出せなくても笛なら吹けるしすごく楽しそうに参加してた。水しぶきも結構かかったけど気にならなかった。


ああ、いいなあ、こういうの。


昔はすごく苦手だったはずなのに。今でも他の人とだと無理だけど、この顔ぶれだったら素直に楽しめた。しかも、星谷さん、イチコさん、波多野さん、田上さんの四人は高校生の女の子なんだよな。それがまた信じられなかった。自分が高校に通ってた時にもこんな風に同じ学校の女の子と出掛けたどころかまともに会話したこともなかった気がする。それが変われば変わるものなんだなあ。


なんてことを考えつつ、沙奈子や玲那や波多野さんが楽しめてるのなら来て良かったと本当に思えた。玲那もそうだし、波多野さんにとって少しでも気晴らしになってくれれば助かるって気もする。


イルカショーが終わると、みんなでハンバーガーを食べた。


「うわ、おいし!。こういうの自分でも作ってみたいなあ!」


千早ちゃんがそんなこと言いながらむしゃむしゃ食べてた。そうやって自分でも作ってみたいって考えるのがすごいと思った。


その後はまた、オットセイとかペンギンとかも見に行った。円筒形の水槽の中をゴマフアザラシが行ったり来たりして、千早ちゃんと波多野さんがそれを夢中になって見てた。


「お~っ!、こっち見てる見てる!。にらめっこかぁ~っ!」


そう声を上げてホントにゴマフアザラシとにらめっこみたいなことを始めたりしてた。沙奈子とイチコさんも、二人よりは控えめだけど興味津々で覗き込んでた。


本当にみんな楽しそうだ。


今回は、見守らなきゃいけない対象が増えたし、僕の家族ってわけじゃなかったから、絵里奈と指を絡めて一緒に歩いたりはできなかった。だけどそれを残念がってる暇なんかなかったなあ。


そういうのはまたいずれチャンスがあると思う。今回はこの感じで子供達が楽しむのが目的だと思えばいいかな。沙奈子や玲那だけじゃない。みんな本当にいい子だ。それぞれ大変なものを抱えてたりするのに、みんなこんなにいい子でいられるのがすごいと思ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ