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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三百八十四 「僕の本音。僕の復讐」

ああ、なんかまたすごく考えちゃってるな。こんなこと、世の中に対して発信したらきっと袋叩きにあうだろうって気がする。世の中的には、復讐って肯定されるべきものだからっていう考えが根強いみたいだし。


けれど、僕は見てしまったんだ。実際に復讐とも言えることをした玲那がどんな目に遭ったかを。聞かされてしまったんだ。イジメの加害者に逆襲しようとした女の子とその家族がどんな目に遭ってしまったのかを。実際の事件はドラマやアニメじゃないから、どっちがより辛い目に遭ってきたのかなんて、他人からはほとんど分からない。どっちが本当は被害者だったのかなんて、分からない。ほとんどの人は、最後の結果だけを見て加害者と被害者を判別してしまう。


『復讐は認められるべき』っていうのを真に受けて実際にそうしようとした結果があれなんだ。スカッとする復讐劇も、分かりやすい勧善懲悪も、所詮はフィクションの中にしかないってことを、僕は刃物で胸をえぐられるほどに思い知らされたんだよ……。


そうさ、僕がヒーローものに感じてた嘘臭さや白々しさの正体がこれなんだって、今ならはっきりと分かる。この世界はフィクションの中みたいに、きれいに善と悪に分かれてないんだ。


本当は言いたかった。ネットに隠れて玲那を攻撃する奴らに対して、


『玲那は自分を苦しめてきた実の父親に対して復讐しただけなのに、お前たちはその玲那を責めるのか!?』


って大きな声で怒鳴りつけてやりたかった。だけどそれをしたら、僕たちはそれこそ容赦ない袋叩きを浴びていたと思う。イジメっ子たちに反撃した女の子のご両親みたいに。他人にはその人の本当の事情なんて分からない。だから表面的な印象でしか判断してくれない。その人のやったことが復讐だったかどうかなんて、理解しようともしてくれないんだ。その実際の例を、僕は知ってしまったんだ。


だから僕は、世間の言うことを信じない。真に受けない。玲那を攻撃した連中に復讐しようとも思わない。それをしたらもっと攻撃されるだけだから。『復讐は認められるべき』なんて、真っ赤な嘘だって知ってしまったから。だからこそ、玲那を攻撃した連中への復讐を我慢する。僕の家族を守るために。


波多野さんもそれを我慢してると思う。もちろんそれだけじゃなくてすごくいろんなことを我慢してる。それが分かるから、別に我慢しなくていいことは我慢しないでほしいと思うんだ。僕たちに甘えてもらっていいと思うんだ。


僕がどれほど言葉を重ねても、攻撃してくる人間はいると思う。理解なんてしてくれないって分かる。だってそういう人は、復讐しようとしたのをこんな風に責められたことがないんだろうから。でも僕たちは、それを実際に経験してしまった。目の当たりにしてしまった。復讐しようとしたら、それを責め立てるのは、実は普段から復讐に反対してる人じゃなく、普段は復讐を肯定してる人たちだから。そういう人たちがものすごい剣幕で責め立ててくるんだから。


無責任な他人が言ってることを真に受けたら、結局は自分が苦しむことになる。沙奈子にもそういうことはちゃんと教えてあげなくちゃって思ってる。




木曜日。星谷ひかりたにが言ってた通り、波多野さんのお兄さんの裁判があった。判決は三年以上六年未満の不定期刑ってことだった。たったそれだけ?って感じるけど、初犯で未成年でって考えると決して軽くはないらしい。


それでも、波多野さんにとっても納得のいく判決じゃなかったそうだった。


「こんな奴、一生刑務所にぶち込んで強制労働させとけばいいんだよ…!」


と憮然とした顔で吐き捨てた。以前言ってたみたいに『私が殺してやりたい』とまでは言わなかっただけ冷静になれたのかもしれないけど、今でも煮えくり返るような思いなのは間違いないんだと感じた。


しかも、当たり前のようにお兄さんの方は、判決を不服として即日控訴したそうだった。そうなると当然のこととして、ネット上での反応も激しいものになってるらしい。


「カナのご家族への嫌がらせ行為も過熱する可能性があるので、注意が必要ですね」


星谷さんの表情も厳しいものになっていた。


改めて世間の怖さといい加減さを感じる。


もし今、波多野さんがお兄さんに復讐しようとしたら、きっと世間はそれを称賛すると思う。だって、お兄さんがやったことが世間に知れ渡ってて、お兄さんの方が攻撃されてるから。世間からも分かりやすいからね。


だけどもし、波多野さんが『こんな事ならあの時にぶっ殺しておけばよかった』と言ったみたいに、お兄さんに乱暴されそうになった時に殺してたりしたらどうなったかな?。


その時には間違いなく、波多野さんがただの人殺しとして今のお兄さんと同じように攻撃されてたと思う。波多野さんにとっては乱暴されそうになったことの復讐だったとしても、そんなことはお構いなしで彼女を攻撃してただろうなって気がする。だって、もっと酷いことをされてきた玲那でさえそうだったんだから。そういうことをされてたっていう情報が出てからも『マスコミの言ってることだからどうせ嘘』って言ってあの子を攻撃し続けたんだ。それと同じことが起こっただろうって簡単に想像がつく。


だから波多野さんは『こんな事ならあの時にぶっ殺しておけばよかった』と後悔してたけど、そうしなくて良かったって僕は思ってる。そんなことになってたらそれこそ取り返しのつかないことになってたはずだから。星谷さんもそれが分かってるんだろうな。


お兄さんに対する判決が妥当なのかどうかは、僕には分からない。感情的な部分から考えたら甘すぎるって感じるのも確かだけど、じゃあどれくらいが適当かって言われたら分からない。こういうのは、立場によって感じ方が全く違ってしまう筈だから。玲那の時は、本音を言えば逆に、有罪になってしまったことを重く感じた。あの子がどれほど苦しんできたかっていうのを考えたらどうして無罪じゃないんだっていうのも感じた。


でもそれは僕が玲那の立場で考えてるからだと思う。もしあの時、玲那の実のお父さんを庇ったりして他の人が刺されてたりしたらどうだろう?。刺された人の家族の気持ちで考えたらどうだろう?。そんな風に考えると分からなくなってしまう。そうだよ。復讐しようとして無関係な人を巻き込んでしまうことだって十分にあり得ることなんだ。そう言えば、昔あったよね。人違いで他の人が殺されたっていうことが……。


そういうことが次々と頭をよぎる。それを思うと、波多野さんがいろいろ我慢して自分を抑えてる今が結局は一番正解なんだっていう風にも感じる。だって今なら、こうやってみんなで身近で支えることもできるから。いろんなことを考えてみたら、まだダメージは少なく済んでるんだと思えてしまうんだよね。



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