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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三百八十三 「復讐は認められるべき?」

火曜日。今週は今日から平日だ。一日少ないけど、木曜日には波多野さんのお兄さんの判決が出るから何もない一週間とはいかない気がする。それでも星谷ひかりたにさんの言う通り気負いすぎてストレスになってもまずいから、淡々といかなくちゃね。


それにしても暑いなあ。梅雨は明けたらしいけど湿度が高い気がする。沙奈子の学校にはクーラーが付いててその辺りでは助かってるけど、体調管理には気を付けなくちゃ。特に沙奈子は我慢しすぎる傾向にあるから、周りが気を付けてあげなくちゃいけないところがある。


そういうところでも、千早ちはやちゃんと大希ひろきくんには助けてもらってる感じだった。なるべく一緒に行動して、沙奈子が無理をしないように見ててくれてるらしい。


まあ、沙奈子をダシにして自分が楽をしたいっていう部分もなきにしもあらずかもしれなくても、取り返しのつかないことになったりするよりはずっといい。根性論を唱えたい人はそういう人たちで集まって好きにしててくれたらいいよ。僕たちは僕たちでやらせてもらうから。


そうだ。とにかく二言目には我慢我慢、我慢が大事ってことを口にする人は、自分が我慢したくないから他人に我慢させようとしてるんだろうなっていうのは昔から思ってた。他人が我慢してないように見えるのが我慢ならないんだと思う。自分がそれを我慢したくないから、他人に我慢させようとするんだってね。


もちろんなにも我慢しなくていいっていう訳じゃないよ。僕だっていつもいろんなことを我慢してる。イライラしてしまいそうなこととか。今なら、会社に対して何も我慢しなくていいのなら、言いたいことは山ほどある。ただそれは、僕自身がそれを我慢することを選んだからそうしてるんだ。誰かに強要されたからじゃない。現状でそれが一番確実な選択だと思うから我慢してるんだ。そして、『僕ならそれを我慢できるからしてる』っていうのもある。同じことを沙奈子や絵里奈や玲那にさせようとは思わない。だから他の人にも我慢しろって言わない。


この世には、我慢しなくちゃいけないことはたくさんあると思う。でもだからこそ、別に無理して我慢しなくてもいいことまで我慢しなくていいと思うんだ。自分にとって大切なものを守る為にここぞっていう時に耐えられたらそれでいいと思う。


沙奈子も千早ちゃんも大希くんも、いろんなことを我慢してるって思ってる。沙奈子はもちろん、ものすごく辛い時間を我慢して耐えてきた。千早ちゃんもそれは同じって気がする。大希くんはお母さんを亡くしたことでとてもたくさんのことを我慢してるんじゃないかな。お母さんに甘えたいのに甘えられないっていうこととか。だからあの子たちには、我慢しなくていいことまで我慢してほしくないんだ。


それは波多野さんも同じだ。今回のお兄さんの事件のことで、お兄さんに対する感情とか、家族に対する感情とか、嫌がらせしてくる世間に対する感情とかを、ものすごい精神力で抑え付けてるのを、傍で見ててびりびりと伝わってきてた。我慢しなくていいって言われたら、それこそ包丁でも持って誰かに襲い掛かってしまいそうなくらいに激しいものを必死で抑え付けてるのが見てて分かる。


だけどそれは、我慢しなくていいことか我慢しなくちゃいけないことかって言ったら、後者だと思う。『やられたらやり返す』っていうのを真に受けて実際にやったらどうなるかっていうのを、波多野さんも玲那の事件で目の当たりにしたんじゃないかな。玲那ほどの辛い境遇で、我慢して我慢してとうとう訳が分からなくなってパニックになってやってしまったことでも、結局はただ世間から攻撃を受けるだけの結果にしかならなかった。


玲那だけじゃないな。千早ちゃんのお姉さんの千歳さんが、以前通ってた小学校でイジメてしまった同級生の女の子だってそうだ。その女の子がイジメに耐え切れなくなってやり返したら、『人を殺そうとするような奴は死ねばいい』と言われて、ご両親がイジメられてたことを訴えようとしたら今度は『人を殺そうとしたくせに言い訳するな』とさらに攻撃されて、イジメられてたことを訴えるのを諦めてしまったなんてこともあったんだ。


『復讐は認められるべきだ』とか『復讐は何も生まないとかいうのはお花畑の理屈だ』とか言う人がいるけど、実は僕も昔はそんなことを思ってた時期もあったけど、その復讐をしようとした人が現実にどうなったのかを知らないからそんなことが言えるんだってのを、玲那の事件や千歳さんが関わった事件で思い知らされてしまった。実際に復讐しようとした人も結局は世間から攻撃されるんだっていうのを目の当たりにしてしまった。


他人からは、そこで何が起こってたのかなんて分からない。アニメやドラマの中で起こってることは神の視点ってやつで見られるから全容が分かっても、リアルな事件では当事者でさえ全体のことは分からないっていうのが普通なんだ。なのに、無責任な他人は、自分のイメージだけで善と悪に振り分けて、自分が悪だと思ったのを攻撃する。それが実際には一番の被害者だったりしたとしても関係なくね。


玲那の事件だってそうだ。最後に事件を起こして世間から『人殺し』と罵られたあの子は、本当は一番の被害者だった。たった十歳で大人の欲望の道具にされて体も心も滅茶苦茶にされて、ようやくそれから立ち直ろうとしたところで実のお母さんが実のお父さんに殺されたも同然の形で亡くなって、しかもその実のお母さんも実のお父さんが大きな病気に罹ってたらしいことに気付きながら手遅れになるのを待っててとか、そんな無茶苦茶な中でパニックを起こして実のお父さんを刺してしまった玲那が一番、世間から攻撃されたんだ。あの子がどれほどの目に遭ってきたのか知ろうともしないで。


千歳さんが関わった事件なんて、カッターを振り回した同級生の女の子は、それこそ自分がされたイジメの復讐をしようとしたんじゃないのな?。それなのに、『小学生でも死刑にするべきだ』とまで言われたんだ。


おかしいよ。復讐は認められるべきなんだよね?。だったらどうして玲那やその女の子が攻撃されなきゃいけないんだよ?。


だから結局、『復讐は認められるべき』なんて、フィクションで神の視点で事件のすべてを分かった気になってるだけの無責任な人の言うことだって僕は思い知らされたんだ。


そうだ。波多野さんのお兄さんの事件だって、被害者の女性がもし今後、お兄さんのことを民事訴訟とかで訴えて賠償金とか請求したりしたら、今度はきっと『金目当てかよ』とか、『賠償金をせしめる為に誘ったんじゃないか』とか言うのが出てくるのが簡単に想像できる。民事訴訟なんて、それこそ合法的な復讐の方法の一つのはずなのに…。


ここまでのいろいろで、僕はそういうのを思い知らされてしまってたのだった。



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