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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三百八十 「買い物」

日曜日。豪雨災害の被害の続報がトピックスとして挙がっているのを見ながらも、僕たちは僕たちで一日を始めなきゃいけない。無事に過ごせてることに感謝しながら、いつも通りに時間を過ごした。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


絵里奈が仕事に行くのを見送って、僕と沙奈子、そして玲那でそれぞれの部屋を掃除して、洗濯して、午前の勉強と出品物の管理作業に移っていった。フリマサイトの方も相変わらず順調らしい。沙奈子は新しいドレスの制作中でそれまでに作ったものは全部売れてしまってた。


『娘さんの品物はもう出品しないんですか?』


最近、そんな問い合わせが入るらしい。それに対して、


『現在、三分の一ドール用のドレスを鋭意製作中です。完成次第出品しますのでよろしくお願いします』


と応えさせてもらってるんだって。すごいな。それってファンが付いたってことなのかな。今のドレスが完成したら、今度はまた小さい方の人形の服を作ることになるそうだ。普通にもう仕事だよね。これでもうアルバイトになるんじゃないかって気もする。来年くらいに会社にできたら、ホントにそこでアルバイトって形にできるんじゃないかなあ。あ、でも小学生のうちはダメなのかな?。けれど、それじゃ子役タレントとかもダメってことになるから、ある程度は大丈夫なのか?。


どっちにしてもまだ沙奈子に働いてもらおうとは思ってないから、いつものペースでできる範囲内でってことで。


そんなことを考えてるうちに午前の勉強も終わって、休憩中の玲那と三人でおしゃべりしてたら玄関のチャイムが鳴らされた。


「よっス、よっス!」


なんか最近、クラスで流行ってるらしい挨拶で千早ちはやちゃんと大希ひろきくんが現れた。その後ろでクーラーボックスを手にした星谷ひかりたにさんが苦笑いしてる。


千早ちゃんは部屋に入るなり、また沙奈子に抱き着いて「フニフニのぷにぷに~」とほっぺたを擦りつけてた。沙奈子も嬉しそうに目を細めてる。


大変なことがあっても、子供たちがこうやって明るく元気でいられるのはいいなと思えた。


今日は久しぶりに手作りハンバーグらしい。三人とも慣れた手つきで作業を始める。でも、この前のホットケーキの時みたいな失敗がないように、油断はしないように気を付けてるのは分かった。ちゃんと自分の経験を活かそうとしてるんだな。


それを見ながら星谷さんが言った。


「今日は、多めに作って夕食のおかずにするそうです。持ち帰り用にクーラーボックスも用意しました」


ああなるほど、そのためのクーラーボックスだったんだ。


「千早ちゃんの家の方はどうなんでしょう?」


本人が元気そうだし表情も穏やかだから大丈夫なんだろうとは思うけど、念の為そう聞いてみる。すると星谷さんの応えも穏やかな感じだった。


「はい、おおむね順調のようです。叩かれたり怒鳴られたりということもほとんどないと言ってました」


そうなんだ。それは良かった。僕もホッとする。沙奈子からも、学校での千早ちゃんの様子を時々聞くけど、クラスの中でも面倒見のいいお姉さん的な感じになってきてるそうだった。体も女子の中では一~二を争うくらい大きくなってきて、そろそろスポーツブラがいるかなみたいなことを言い出してるって。おっと、これは余談か。


「ケーキ作りの方もかなりコツをつかんできたようです。あと一~二回練習を予定していますが、その必要もないかも知れません」


星谷さんの言葉に、思わず頬が緩む。誕生日パーティーの時のケーキは美味しかったな。あれをお母さんに振舞ってあげるのか。喜んでもらえたらいいな。って言うか、小5の娘に手作りケーキを振舞ってもらえる親ってそんなにいないんじゃないかな。もうそれだけで十分に幸せなことな気がする。千早ちゃんのお母さんがそれで満たされて気持ちが穏やかになってくれたら、きっとみんなが優しい気持ちになれそうだ。


そんなにうまくはいかないかもしれない。だけどイライラしてるばっかりじゃもったいないよ。自分の娘が自分のためにケーキを作ってくれるなんてすごいことじゃないか。それまでの人生ではいいことがあまりなかったのかもしれない。けど、今の千早ちゃんは家族想いのすごくいい子だよ。赤の他人の僕でも、あの子を見てるだけでも癒される。だから素直に癒されてあげてほしい。


でもまあ焦る必要もないのかな。注意深く見守ってる星谷さんが落ち着いてるんだもんな。ゆっくりゆっくり確実に家族の関係を取り戻していけたらいいんだろうな。


けれど、それを思えばこそ、波多野さんのことが残念で仕方なかった。どこで間違ってしまったんだろう。どうすれば今の状態を回避できたんだろう。ついそれを考えてしまう。それでも、諦めるわけにはいかないよ。せめて波多野さんだけでも守ってあげたい。


そうこうしてる間にもハンバーグはどんどん出来上がり、千早ちゃんが持って帰る分を除けて、ハンバーグをいただいた。美味しかった。玲那も絵里奈の手作りハンバーグを食べてた。


「じゃ、またね~」


そう言って千早ちゃんたちは帰っていった。


そして沙奈子の午後の勉強が終わる頃、外がすごく暗くなってきた。それからすぐに雨が降り始め、強くなっていく。


「これは、今日は買い物は行けないか…」


買い物に行けないと来週の晩ごはんのメニューが限られてしまうから少しくらいの雨ならもちろん行くけど、ここまで雨が強いと無理はしたくない。雷も鳴ってるし。


たぶん夕立ちだと思うから早く上がってくれたら行けるかなと思ったのは残念ながら叶わなかった。雨は結局、夕方まで強く降り続け、買い物には行けなかった。


食品は、冷凍食品やレトルトも含めて買い溜めしてあるから何とかなる。野菜も、ジャガイモと人参と大根とキャベツはまだある。お米も十分。贅沢言わなければ大丈夫じゃないかな。


何て思ってると沙奈子が、


「明日行けたら大丈夫だと思う…」


って。言われて気が付いた。そうだ、明日は海の日で休みなんだった。明日行ければ大丈夫か。


うっかりしてた自分が恥ずかしい。沙奈子の方がよっぽどしっかりしてるよ。ほんと、ダメな父親だなあ、僕は。こんなダメな父親の下でもこの子はこんなにいい子に育ってくれてる。立派で完璧な親でなくても大丈夫なんだって実感する。


そうだよ。人間はみんな完璧じゃない。どこか欠点があったり抜けてたりするんだ。だから子供が完璧じゃないのも当たり前なんだ。まず大人が完璧じゃないんだから。そんな大人が偉そうにしてたって信用できない。必要なのは偉そうにすることじゃなくて、自分が立派で完璧な大人じゃないっていうのを認めることが、子供の前でそれを認める勇気を持つことが大事なんだと、僕は改めて思ったのだった。



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