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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三百七十六 「夏の予定とか」

すごい夕立が収まると、途端にのんびりとした空気が漂ってくる気がした。沙奈子も落ち着いてドレス作りを再開する。それにホッとしながらも、さっきの夕立を思い返してみて、あの勢いで半日とか降り続くと危険だっていうのは僕も感じる。


この辺りは長い間、災害らしい災害はなかったらしいけど、油断はできないんだろうな。実際、堤防が決壊するような差し迫った危険は聞いたことなくても、川の水位がもう少しで堤防を越えそうだったということは、僕がここに引っ越ししてからでも何度かあったみたいだし。


でもその頃の僕は、そういうことにも無関心で、万が一のことがあってもなるようになるだろくらいにしか思っていなかった。だけど今、そんな調子で僕が命を落としたりしたら沙奈子や絵里奈や玲那が悲しむと思えば昔の自分は何を考えてたんだって気がしてしまうんだよね。


そんなことを考えながらも沙奈子の後姿を見てた時、水繋がりで連想したのか、不意に思い出したことがあった。そう言えば、沙奈子の夏休み前のプールは明日で終わりなんだっけ。用意はすでにできているからそれは問題ないにしても、夏休みまではまだ10日ほどあるのにそれでプールが終わりというのはどういうスケジュールの組み方なんだろうと思わなくもない。


しかも今年はなぜかプールのある日に限って曇ってたりして妙に涼しくて、プールが寒かったと千早ちはやちゃんが文句を言ってたりした。沙奈子は元々そんなにプールが好きなわけでもないはずだから、それでプールに入らせてたというのは何だかすごく残念な気がする。すごくいい学校なんだけど、何もかもが完璧とはさすがにいかないなあ。僕はそういうことで文句を言うつもりは全くないからいいんだけどさ。


あと、夏休みも七月中はほぼ毎日プールがあるそうなので、千早ちゃんや大希ひろきくんたちと一緒に行く予定にはしてるみたいだ。平日はまたずっと山仁さんのところでお世話になるからそっちもちゃんとご挨拶しておかなくちゃ。


そうだ。今年も夏休みまでもうすぐだ。


思えば去年の夏休み前後は、千早ちゃんとのこととか、絵里奈や玲那と初めて海に行ったりとか、沙奈子にとっては実は結構大変な時期だったような気がする。今年は今年で玲那のことがあったりでやっぱり手放しで楽しめないっていうのも事実なのか。


ただ、沙奈子は元々あまり浮かれた感じではしゃぐ子じゃないから、淡々と過ごす方が好きなんだと思う。そういう訳で、海に行く予定は今のところはないのかな。ああでも、大希くんは海に行く予定にしてて、千早ちゃんもそれについて行くつもりで、イチコさんや星谷ひかりたにさんや波多野さんや田上たのうえさんも一緒に行くのを予定してるらしいから、もしかしたら僕たちもってことになる可能性はあった。


それと、これはそれこそ未定なんだけど、星谷さんの別荘に、僕と沙奈子だけじゃなくて絵里奈も玲那もみんな一緒にって誘われてたりもするんだよね。去年もイチコさんと波多野さんと田上さんを招待したんだって。そこでいろんなことを話したりして打ち解けあったらしい。だから今年はさらにみんなでってことらしかった。あと、ずーっと山仁さんの家に入りびたりだから、たまには山仁さんに一人になってもらってリフレッシュしてもらおうという狙いもあるんだとか。


でもさすがに、そこに僕たち家族まで加わるようなご迷惑はかけられないし、休みだって僕と絵里奈のそれが合うとは限らないし、僕が行かないとなると沙奈子も行きたがらないしなあって思ってる。だけど玲那だけは、


『何それすごいじゃん、行ってみたい!』


と言ってたりするんだけどね。だからって玲那だけで行かせるというのもどうなのかなあ。それにそうなってくると、星谷さんのご両親にもご挨拶に行かないといけない気もするし。そうだよ。星谷さんにはものすごくお世話になってるんだから、やっぱりご挨拶に行かなきゃダメだよな。だけどそのことについて星谷さんは、


『両親は、私が自分の責任においてすることについては何も口出ししません。両親には相談もしていません。だから私の両親のことは気になさらないでください。それに、面会するとなると先にアポイントを取っていただく必要がありますが、おそらく向こう何ヶ月かはスケジュールが詰まっていると思います。ですので、あまりそういうことに拘らないでいただく方がむしろ助かるんです』


とは言ってた。言われてみればそうかもしれない。いろんな偉い人と会ったり仕事上の付き合いとかに忙しいだろうから、僕らみたいなのに時間を割いてもらうのは逆に迷惑なのかな。


なんて、少々卑屈になってしまいそうな感じでいろいろ思案中だったり。


その一方で、せっかくのチャンスだから沙奈子にそういう経験もさせてあげられたらなって思ってる自分もいるんだ。その辺りの返事は今月中にってことになってる。それからさらに、沙奈子の学校の方でも九月に林間学校がある。イベントが目白押しって感じ。普通の人にとってはこのくらいどうってことないのかもしれないけど、僕と沙奈子みたいにイベントとかちょっと苦手なタイプにはなかなかハードな感じなんだよね。


沙奈子、大丈夫かな。大丈夫とは思いたいんだけどさ。


けれどそういうのもちゃんと毎日を平穏に過ごしてこそのものだから、まずはそっちが優先かな。


って、それ自体が、去年までは思いもよらなかった毎日なのか。そうだよ。去年の今頃は、沙奈子の学校の行事だけでもいろいろあっていっぱいいっぱいな感じだった。しかもそれ以前なんかだと、それこそ何もなくて死んだみたいな空虚な毎日を送ってた。それはそれで不満もなかったし楽だったのも事実。でも、今みたいなのも大変だけど嫌っていうわけでもない。


辛いこともありながらも、毎日が充実してる。いろんなものが僕の周りで溢れてる。好きとか、楽しいとか、そういう気持ちも確かに確かにあるんだ。僕の知らなかったものがものすごくたくさん目の前にある。それがすごかった。


自分がこういう世界に身を置くことになるなんて、想像もしてなかった。こんなにたくさんの人に囲まれて、こんなにたくさんの人のことを気にかけて、意識して毎日を平穏に暮らそうと考えるようになるなんて、思ってもみなかった。


そして今日も、一日が無事に終わろうとしてる。毎日毎日いろんな心配をしていろんな想定をして無事にやり過ごすように気を付けて、こうやって沙奈子を胸に抱いて穏やかな気持ちで眠りにつこうとしてる。これを一日一日積み重ねていくんだ。


人生には実はそういうきっかけがあちこちに転がってるのかもしれない。それを掴むのも見過ごすのも、結局は自分なんだなとも思ったのだった。



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