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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三百七十五 「激しい夕立」

先日、胸の中に溜め込んでたものを思いっ切り吐き出したからか、波多野さんは落ち着いてる感じだった。またいつかあの感じで爆発することがあっても、それを受け止めたいと思う。


沙奈子を連れて家に帰って、お風呂にする。二人でとろけたお餅になってリラックスする。お風呂の後はエアコンと扇風機をつけて涼みながら、沙奈子と絵里奈はドレスづくり、玲那は出品した商品の管理作業を忙しそうにやっていた。


その様子を、僕はぼんやりと眺めてる。


平日、僕たちが仕事に行ったり学校に行ったりしてる間に一人で部屋にいる玲那は、録り溜めたアニメを見るのとフリマサイトに出品した品物の管理作業が忙しくて、気が付いたら絵里奈が帰ってくるっていう毎日らしい。そのおかげで退屈しないし余計なことを考えずに済んでるっていうことだった。


元々アニメ好きで見かけによらずインドア派だから、ずっと部屋に閉じこもるのも得意だって。その一方で海とかに行くのは好きだとも。執行猶予が明けるまでは、と言うか、世間が玲那の事件を忘れ去ってしまうまでは大人しくしておこうということで、しばらく海には行けないってことになったのは残念だと嘆いてたけど。


だけど、改めてニュースで使われた玲那の写真を思い出してみると、『誰?』って思うほど酷い写りのものだった。あの手の写真ってどうしてあんなに違って写るんだろう。普段のすっぴんの状態でも可愛いのに、写真になるとなぜか変になるのが不思議だった。あの写真だけだったら、正直、普通にしてても分からない気もする。だけどネット上には、中学や高校の頃の写真や、香保理かほりさんに似せたメイクをしてた頃の写真が晒されていたから、気付く人は気付くんだろうな。


事件の背景とかそれまでの経緯とかを全部そっちのけにして、追い詰められた結果にしてしまったことだけでこの世に要らないものと断罪する人たちの方がよっぽど闇が深いとも思った。


そんなことを考えてるうちに寝る時間になって、僕たちは眠ったのだった。




日曜日。今日も僕たちは穏やかに一日を始めることができた。でも遠く離れた場所では苦しんでる人たちがいるっていうのもどうしても頭をよぎってしまう。考えすぎてもダメなのは分かってても、自分に失いたくないものができてしまったから、ついついそれと重ねてしまうんだ。


だけどとにかく一日を始める。


朝食を食べて、仕事に行く絵里奈を見送って、掃除と洗濯をして、沙奈子の午前の勉強をして、千早ちはやちゃんたちを迎える。今日はまた手作り餃子だった。だから僕と星谷ひかりたにさんも手伝って、具を皮に包んでいく。たくさん作ったから、千早ちゃんはそのうちの半分くらいを家に持って帰ってから焼くことにしたようだった。


「お姉ちゃん、喜んでくれるかな?」


紙皿に乗せてラップに包んだそれを袋に入れながら、彼女は星谷さんにそう訊いてた。


「喜んでもらえたらいいですね」


ふわっとした笑顔で星谷さんが応えると、千早ちゃんはちょっと照れたみたいに笑ってた。ここで『きっと喜んでもらえますよ』みたいに言わないのが星谷さんらしいと言えばらしいのか。それでも千早ちゃんが嬉しそうにしてるのは、こうやって話を聞いてきちんと応えてもらえることが嬉しいんだと思った。


みんなで餃子を食べて、玲那も絵里奈に作ってもらってた餃子を食べてた。前の日に何を作るか分かってると、絵里奈が朝の内に用意してくれるんだ。玲那自身が『今日はインスタントラーメンの気分』とか言った時は別だけどね。


お昼を終えて千早ちゃんたちが帰った後、午後の勉強をして買い物に行って、夕食の時間まで寛いでた。でも何だか外がすごく暗くなってきてた。夕食もお昼に作った餃子の残りを焼いて食べることにしたんだけど、外ではすごい雨になって、雷も鳴り始める。


沙奈子は雷はそんなに怖がらない。ただあまり大きな音だとさすがに不安そうにはする。


外がカッと光ったと思ったらバリバリバリッッて感じの爆発音みたいな雷鳴でアパートが揺れた。そう遠くないところに落ちたんだと思った。


「近くに落ちたね…」


餃子を焼きながら思わずそう声を漏らした沙奈子を抱き締める。鼓動が早くなってるのが分かった。今のはやっぱり怖かったんだな。


夕食を食べてる間も雨と雷はすごくて、ふっと部屋の明かりが一瞬消えそうになった。電圧低下ってやつかな。


「こっちはまだそれほどじゃないですけど、そっちはすごそうですね」


絵里奈がビデオ通話の画面から話しかけてくる。


「そうだね。もうしばらくしたらそっちにも行くかも」


画面の中では、絵里奈の後ろで玲那が何か変な動きをしてた。近付いてくる雷にテンションが上がってきてるんだと思った。


とその時、画面の向こうからゴゴーンって地響きみたいな低い音が響いてきたのが分かった。


『うおーっ。こっちもキタ―――――!』


玲那から興奮した感じのメッセージが届く。


そんな感じだったから、今日はもう大事をとって山仁さんのところへはビデオ通話での参加にしておいた。雨が強かったことは最近何度かあったけど、たいていは仕事終わりに沙奈子を迎えに行ってた時のことだったから、山仁さんのところで雨が収まるのを待ってそれから家に帰るようにしてたりもした。


とにかく無理はしない。無謀なことはしない。自分を過信しない。わざわざ危険の中に飛び込むようなことはしない。それを心掛けてる。沙奈子にも、


「雷が聞こえてる時はなるべく外に出ないようにしてね。収まるまでどこかで待つようにしてね」


と念を押しておいた。


「うん」


って彼女が頷いた時、それに合わせるみたいにしてドーン!って感じでまた地響きみたいな雷鳴が届いてきた。


ビデオ通話が繋がると、波多野さんが玲那と同じように変な動きをしてた。雷にテンションが高くなってるんだろうな。


ガガーン!って大きなのが来ると、「うひょーっ!!」って声を上げる。そんな波多野さんの向かいにいた星谷さんの横に千早ちゃんが、画面の奥にいた山仁さんの隣には大希ひろき君の姿もあった。そんなに怖がってる風ではなかったけど、さすがに子供たちだけで一階にいるのは不安だったんだろうな。


そんな感じで今日はほとんど話し合いにならずに、みんなで雷にまつわる雑談をしながらリアクションを取ってるだけで終わってしまった。


その雨と雷も一時間ほどで収まって、それからは嘘みたいに静かになった。夕立ってやつだったんだろうけど、激しかったなあ。それがやんでから、星谷さんは千早ちゃんを家まで送りに、田上たのうえさんは自宅に帰っていった。


「すごかったですね」


家族だけのビデオ通話に切り替わってから、絵里奈がそう言った。


「ほんとだね。でも、絵里奈たちもこういう感じの時は無理に外に出ないで避難しててね」


その僕の言葉に、絵里奈と玲那が大きく頷いてたのだった。



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