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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三百六十八 「油断大敵」

朝食の間、ビデオ通話で絵里奈や玲那とも顔を合わす。二人とも今日も元気そうだ。それからいつものように沙奈子と一緒に掃除と洗濯をを始めると、画面の中で絵里奈が仕事に行く用意をしてた。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


と画面越しにお互いキスする仕草をして、絵里奈を見送った。僕と沙奈子のキスを代わりに届けるみたいにして玲那が絵里奈の頬にキスをした。すると絵里奈も、僕たちにできない代わりに絵里奈の頬にキスを返した。バカみたいに見えるかもしれないけど、この習慣を無理なくできてるうちは僕たちは大丈夫だと思う。こういうことをしなくなってからが、家族の関係をどう保つかっていう本番になるんだろうな。


習慣を強制的にやらせるんじゃ意味がないんだ。お互いにそんな風にしたいって思える間柄であることが大事なんだと感じてる。


僕と沙奈子がこっちの部屋を掃除してる間に、玲那も向こうの部屋の掃除をしてる。決して家事は得意じゃない玲那でも、掃除はそれなりにできる。ただ一人だとやる気が起きないだけなんだって。だからこうやって、僕たちと一緒にするんだ。ちなみに平日は、絵里奈が帰ってきてから二人でやってるそうだ。日曜日だけ、こうして僕と沙奈子と一緒にやる。


その玲那の様子も、掃除をしながら僕は見るようにしてた。疲れてないか、体調が悪そうにしてないか、思い悩んでるような顔をしてないかって。顔を合わて朝食をとってる時には平気そうな顔をしてても、そうやって作業をしてると、つい、表情に出てしまうと思うんだ。でもそれは、あの子の方も同じだった。あの子も僕たちのことをそうやって見てた。僕たちはこうやってお互いの様子を見るようにしてるんだ。これといって問題ない。この前の、星谷ひかりたにさんに質問した時のことも大丈夫みたいだ。


掃除と洗濯が終わって、沙奈子の午前の勉強が終わってしばらくして、千早ちゃんたちがやってきた。


「やほ~!」


もうすっかり気軽な感じで来て、今日は久しぶりにホットケーキを作ることにしたみたいだった。何ヶ月もずっと毎週のように作り続けてきたからそれこそ余裕だった。だけど、そういう時こそ油断しちゃいけないと思った。するとやっぱり、


「あちっ!」


っと千早ちゃんが声を上げた。ホットケーキを焼いてる時、つい他のことに気を取られてフライパンに手が当たってしまったみたいだった。


「水で冷やして!」


僕はそう言いながら救急箱から軟膏を取り出した。水で冷やした後、星谷さんが患部に軟膏を塗る。幸い、少し赤くなってるだけみたいだった。すぐに水で冷やして軟膏を塗ったことが幸いしたのか、水膨れにもならなかった。慣れたからって油断してるとこういうことが起こる。家庭の中で起こる事故っていうのは、実は交通事故よりも多いくらいだっていう話を聞いたことがある。家の中だからっていう油断もあるのかもしれない。だから僕は、子供たちだけで火を使わせたりしないように心掛けてるんだ。


地震のこともそうだけど、対処できることは対処していきたいと思う。『大丈夫だろ』って考えて放っておくことはしたくない。今回は幸い、大きな怪我じゃなかった。だからこそ気持ちを引き締めるきっかけにしたい。どこに危険があるのかっていうのを子供たち自身が学ぶ時も、それはあくまで大きな事故にならないように大人が見守ってるところでっていうのが望ましいと思ってる。忙しいとか面倒臭いを、子供達から目を離す言い訳には使いたくない。そんなことをして万が一のことがあったら、それこそ僕は後悔するから。


「千早。油断は禁物ですよ。この痛みを忘れないように心掛けてください」


星谷さんも千早ちゃんの目を見ながら穏やかな口調で諭した。千早ちゃんも、そんな星谷さんを真っ直ぐに見詰め返しながら「うん」と大きく頷いた。いつも思うけど、その姿は完全に母と娘って感じなんだよね。


沙奈子のフォローもあってホットケーキも無事に焼けて、子供達はホットケーキを、僕と星谷さんは冷凍パスタを温めたものを、玲那はカップラーメンを食べた。


『千早ちゃん、大丈夫?』


玲那からのメッセージに、千早ちゃんも、


「大丈夫、そんなに痛くないし!」


と元気に応えた。


「膨れたりとかしてきてないね。良かった」


って、千早ちゃんの指を覗き込みながら言ったのは大希ひろきくんだった。普段はあまり目立つようなことをしないけど、こういう時はすごく気遣うみたいな様子を見せてくる子だった。相変わらず体は小さくて表情が柔和で、当たりが強くないから沙奈子や千早ちゃんと一緒にいると女の子にも見えてしまう。ただ、本人はあまりそれを喜んではいないんだって。それなりに男の子に見られたいという気持ちはあるらしかった。


かと思うと、それは思春期として異性を意識してるとかそういうのでもないらしい。ただ何となく、女の子に間違われるのは本意じゃないなっていうことみたいだ。だけどその優しい物腰を見てると、ちょっとぶっきらぼうなところも見え始めてきてる千早ちゃんより女の子っぽかったりっていう印象があるのも、正直なところなんだよね。


今日も、千早ちゃんと玲那のアニメ談義を見ながら昼食を済ませて、三人は帰っていった。沙奈子も楽しかったっていうのがその様子を見てると分かる。何て言うか、とにかくそういう顔をしてるんだ。ほとんど表情は動いてないけど。冷静になってみるとよく自分でもその微妙な違いが分かるなって思ってしまう。この子のことをずっと見てるからなんだろうな。


午後の勉強を終わらせて二人で買い物に行ってってする。もう沙奈子は買い物もお手の物だった。予算を決めて献立を決めて躊躇なく品物をカゴに入れていく。後ろから見てると体が小さいだけでベテラン主婦のオーラすら感じる気がした。


でもそんな様子を見てると、沙奈子と千早ちゃんと大希くんそれぞれの違いがはっきりと感じられて面白かった。みんなすごくいい子なんだけど、やっぱりタイプが違うんだ。判で押したみたいな規格品としての『良い子』じゃなくて、ちゃんと個性が感じられた。この子たちの周りで個性個性と煩く言ってる人は誰もいないのに、不思議と三人三様になってた。


だから僕は、個性っていうのは作るものと言うよりも、こうやって自然と滲み出てくるものなんだろうなって今では思うんだ。


そんなことを考えながら家に帰って寛いでると、ビデオ画面から「ただいま」って声がして、絵里奈が姿を現した。仕事から帰ってきたんだ。


「おかえり」


『いってらっしゃい』の時と同じように、お互いにキスの仕草をして迎えた。ああ、今日も無事に家族が揃ったなって思って、僕はホッとしてたのだった。



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