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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三百五十一 千早編 「千早ちゃんの成長」

正直、ケーキが成功するのは夕方くらいまでかかるっていう目算で朝から始めたから、昼過ぎには完成してしまったことはむしろ予想外だった。まぐれ当たりの可能性もあるけど、それでもこれまでいろいろ練習してきたことが、『作る』っていうことの感覚を磨いてきたんじゃないかな。


今回、完全に千早ちはやちゃんが中心になってそれを作った。そしてケーキが完成したことが、何よりのお祝いになった気がする。


ケーキを前にすごくいい笑顔で笑ってる千早ちゃんを見る星谷さんの目が潤んでるように見えた気がした。その姿が本当に娘の成長に感動してるお母さんって感じで、もし将来、自分の子供をもったとしても、いいお母さんになるんだろうなって思えた。


リビングにケーキを退避させてケーキ作りの道具とかは片付けて、子供たちはお昼にカルボナーラを作った。それを当たり前みたいにこなす姿が頼もしささえ感じさせた。沙奈子と千早ちゃんもそうだし、目立たないけど大希ひろきくんの手際だって地味にすごいと思う。女の子とか男の子とか関係なく料理を作れるのは、今後いろんな面で役に立ってくるんじゃないかな。


僕だって、決して上手じゃなくても全く何もできないってわけじゃなかったから一人暮らしで自炊もできたし、沙奈子が自分で料理をするきっかけを作ってあげられたのかも知れない。あの子とホットケーキ作りをしてなかったら、今日のこの光景はなかったかも知れない。絵里奈と知り合ってても、普通に絵里奈にお任せで何もできなかったかも知れない。だって絵里奈が言ってたんだ。『沙奈子ちゃんが料理に興味があるみたいだったから手伝ってもらおうと思ったっていうのもあるんです』って。


僕の何気ない選択が、今日のこれに繋がったのかも知れないと思うと、何かが込み上げてくる感じもあった。


そうだ。こんな感じで、日常の何気ない選択が未来に繋がっていく。これが人生っていうものなんだ。すごいと思うと同時に、その責任に身が引き締まる思いもした。


千早ちゃんのご両親の選択が千歳さんの事件に繋がったり、波多野さんのご両親がお兄さんの行いを正さなかったことがあの事件に繋がったり、田上たのうえさんのご両親の選択が家庭崩壊に繋がりかけようとしてたり、そういう諸々が改めて実感できてしまった気がした。


他の家庭でも、そういうことが起こってるのかも…。いや、実際にそうなのか。僕の両親だってそうだったもんな。絵里奈や玲那の家だって…。


自分の選択や行いが自分に返ってきたり、子供たちに影響したり、それが人生ってものなんだな。


そして千早ちゃんは、自分で選び始めた。自分が料理をして家のことをして家庭を支えるっていう選択をした。その選択を、星谷さんを始めとした周りの僕たちが支える。こうして千早ちゃんの人生が作られていくってことなんだ。


千早ちゃんが具体的にそれを理解してるかどうかは分からない。ただ、今日のこの誕生日パーティーは、彼女の中でとても大きな意味を持つ気がする。自分のためのバースデーケーキを自分で作ってそれ自体を誕生日のお祝いにするって千早ちゃん自身が選択したのは、これからの彼女の人生を形作っていくんだろうな。


手慣れた感じでスパゲティカルボナーラを作っていく千早ちゃんの姿がとても大きく見えた。元々、割と身長は高い方だった彼女がいっそう大きく見えた気がする。彼女はもう、しっかりと自分の人生を歩き出してる。普通ならもっと親に甘えててもいいはずなのに、沙奈子とはまた別の形で自分の力で歩き出してる。


すごいな。僕なんかよりよっぽど立派じゃないかな。だから千早ちゃんのことを子供だなんて見下せないよ。やっと11歳になるんだとしても、彼女はもう一人前の人間なんだ。


家の事情でそういうのを促されてしまうのは本来は残念なことなのかもしれなくても、自分に与えられた状況の中で彼女は強く生きようとしてる。それは褒められて当然のことだと思う。沙奈子と違って『よその子』だから抱き締めたりはできないけど、心の中ではそれくらいの気持ちだった。『すごいね』『よく頑張ったね』って、ぎゅーっと抱き締めて褒めてあげたい気分だった。


なんて、こんな事ばっかり考えてたらまた沙奈子がヤキモチ妬いちゃうかな。だからちょっとセーブセーブ。抑えなきゃ。僕はあくまで『沙奈子のお父さん』であって、千早ちゃんのお父さんじゃないから。


親にとって自分の子供が一番なのは当然だって、今なら思う。他の誰より大事だって思って当然なんだって分かる。それは、みんなそうなんだ。すべての親にとって自分の子供が一番でいいと思うんだ。


星谷さんが今、千早ちゃんのお母さんなんだとしたら、沙奈子より千早ちゃんを優先したってそれは当然だと思う。だって僕は千早ちゃんより沙奈子を優先するから。僕が沙奈子を一番大切にして、星谷さんが千早ちゃんを一番大切にして、それでちゃんとバランスが取れてるって思える。


ここで、自分の子供より他人の子供って言うのは、ただの綺麗事にしか僕には思えない。自分の親が自分より他人を大切にしてる姿が子供から見てどう感じられるかを考えてないとしか思えない。自分の親に一番大切にしてもらえない子供が何を思うのかってことさえ考えてないんだっていう気しかしない。


僕はそういうのは嫌だ。僕は沙奈子が一番大切なんだ。その気持ちに嘘はない。そこで『千早ちゃんの方が大事』なんて言ってしまうのはただの白々しい嘘でしかない。その代わり、星谷さんが千早ちゃんを一番大切にして沙奈子をその次にすることに腹を立てたり恨んだりするつもりもない。それでお互い様なんだから。


その一方で、僕は決して千早ちゃんのことをどうでもいいとは思ってないし、星谷さんも沙奈子のことをどうでもいいと思ってるわけじゃないんだ。僕は沙奈子のために千早ちゃんのことを大切にしたいし、星谷さんは千早ちゃんのために沙奈子を大切にしたいと思ってくれてる。だから僕も星谷さんも、沙奈子と千早ちゃんの両方を大切にするんだ。その大切さにちょっとだけ順位があるだけなんだ。それは決して間違ってないと思う。


そんな中で、子供たちは育っていく。沙奈子も、千早ちゃんも、大希くんも、僕たちがやってることを学び取って成長していく。僕たちのやり方を見て、他人との接し方を学んでいくんだ。自分じゃない誰かを大切にするのってどういうことなのかって。


僕たち自身が、子供たちにとっての教科書であり手本であり指標であり実例なんだ。僕たちのやってることが、子供たちがどういう人に育っていくのかを決めてるんだ。だったら、僕たちが他人を平気で傷付けられるような人間でいちゃいけないって分かると思う。だから僕は他人を傷付けたりしないでおこうと思うんだ。沙奈子にそうなってほしくないから。



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