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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三百十八 千早編 「それぞれの欠点」

日曜日の朝、叔父さんへの挨拶も終わって、僕たちはなんだかまた山を一つ越えたような気分になってた。沙奈子も何となくリラックスしてる気がする。やっぱり知らない人に会いに行くというのはこの子にとっては大変だったんだろうなって気がした。


実際に会ってみればすごく器の大きな穏やかな人で安心したけど、それとは別に元々人に合うのとか苦手だからなあ。僕も沙奈子も。実際には絵里奈や玲那だって本当は得意じゃないらしい。僕たちよりはちょっとばかりマシっていうだけなんだろうな。


いつも通りの時間を過ごして午前の勉強まで終わらせる。でも、これからが今までとちょっと違う。実は今日は、ホットケーキを作るわけじゃなかった。さすがに飽きてきた。というわけじゃなく、他の料理にも積極的に挑戦しようってことになってきたんだ。ちなみに今回は、ミートソーススパゲッティだって。


カセットコンロはあっても基本的にうちのコンロは一口だから、まずミートソースを作ってからパスタを茹でればいいということでそうなったらしい。


僕としては、沙奈子と千早ちゃんたちが仲良くうちで料理とかできるんならなんでもよかった。それに、千早ちゃんのレパートリーが増えると、きっとそれだけ家での彼女の存在感が大きくなると思う。千早ちゃんのお母さんは家事とかあまり得意じゃなく、特に料理は好きじゃなかったらしい。食べるのは嫌いじゃないそうだけど、作るのもそうだし特に片付けるのが嫌だったんだって。


それとは逆に、絵里奈はその辺りが上手い。料理をしながら空いた時間で片付けもしていく。だから料理が出来上がった時には使った道具とかも殆ど片付いてる状態だった。食事の後の片付けも、沙奈子と一緒にお話ししながら楽しそうにやってた。絵里奈に言わせると、


『綺麗に片付けるまでが料理ですよ。せっかく美味しいものを食べた後でぐちゃぐちゃのキッチンを見るのとか嫌じゃないですか』


だって。それを沙奈子も真似てるのか、料理を作りながら片付けするし。それと、食べた後の片付けは二人で一緒にしてた。僕も沙奈子に片付けとかを上手にやってもらいたいと思ってたし、何より、一人でやるより二人でやった方が楽しいし。


そうだ。家のことはみんなでやるんだ。どっちの役目とか仕事かじゃなくて、みんなで自分にできることをして家庭を守るんだ。少なくとも、僕はそうしようと思ってる。だから沙奈子にも手伝ってもらってた。その上で、命令してやらせるっていうのが僕にはピンとこなかったから、一緒にやってもらってたんだ。何より僕が楽しかったから。


千早ちゃんや大希くんにもそういうのが伝わるといいなと思ってる。以前、山仁やまひとさんが言ってた。


『私はどうしても、性格的に自分でやろうとしてしまうクセがあって、しかもあまり上手じゃないので、以前は家の中が他人にお見せできない程に荒れていました』


って。曰く、『汚部屋』状態だったらしい。何だかすごく意外に感じたけど。


それが、大希くんが僕の家で沙奈子や千早ちゃんと一緒にホットケーキを作り始めた頃から大希くんが率先して家の中のこともやってくれるようになり、片付けも手伝ってくれるようになったんだって。しかもそれを見た星谷さんまで手伝い始めて、今じゃすっかりきれいになったって。それについて星谷さんは、


『未来の嫁ですから、このくらいは当然です』


とまで。やっぱり大希くんとのこと、本気なんだってしみじみ思った。


山仁さんは人間的にはすごく尊敬できて、僕にとっては目指すべき目標みたいな人だけど、それでもやっぱり苦手なことというのはあって、それが家事ってことだったんだな。仕事に集中してしまうとついつい後回しになってしまうこともあったんだって。そんな感じで時間が無くなって結局は手抜きになって最低限のことしかできなくて。


ああ、でも、それは分かる気がする。僕は家でまで仕事しないし趣味らしい趣味がなくてむしろ時間は持て余し気味で、今では沙奈子と一緒に家のことをするのがちょっとした趣味と言うか楽しみになってたから結果として部屋が片付いてるだけなんだよね。義務感とか役目とか仕事でやってるんじゃないんだ。


山仁さんはさらに言ってた。


『私は、物を捨てるというのが上手くできなくて、使わないのに何でもかんでも手元に置いておこうとするクセもあったんです。しかも自分が納得できないと捨てられない。他人に指図されるとつい反発して余計に意固地になってしまう。それで、家の中に物が溢れてしまって。たぶん私は、一人になると不用品を溜め込んでしまうタイプの人間なのでしょう。いわゆるゴミ屋敷の主になるタイプなんでしょうね』


そんなわけで、イチコさんと友達になった星谷さんや波多野さんや田上たのうえさんが家に尋ねてくるようになった頃には、玄関にまで物が溢れてて、本当にゴミ屋敷になる直前みたいな状態だったらしい。それが、大希くんが家のことを手伝ってくれるようになったことで変わっていったって。


ちなみにイチコさんはお父さんに性格がよく似ていて、片付けとかも上手じゃないのも似てしまったって話だった。大らかで細かいことに固執しないのはいいんだけど、身だしなみとかにも頓着しないから、それを田上さんが中心になってフォローしてるって。


その話を聞いた時、変な話だけど僕は逆に安心した気がした。僕からすれば山仁さんってすごく立派な人に見えてたのに、その山仁さんにもそういう欠点と言うか弱点と言うか苦手な部分があって、それを他の人がフォローしてくれてるんだっていうのを知って、山仁さんもやっぱり普通の人間だったんだって思えて。


そうなんだよな。誰だって完璧じゃない。みんなどこか欠点や苦手な部分があって、そういうのをお互いに補い合って生きていくんだと思う。それを改めて確認させてもらった気がした。そういう意味でも、山仁さんは僕にとってある意味では手本だって再確認できた気もした。


絵里奈の叔父さんだって、あんなに穏やかで器の大きい人なのに、お子さんを亡くしたことで奥さんとの関係を守り切れなかったりしたんだ。すべての面で優れた完璧な人なんていない。それが現実なんだって。


だから他人に完璧でいることを期待する方が無理があるんだよ。自分が完璧じゃないのに他人には完璧でいてほしいなんて、ただのワガママじゃないかな。僕はそれに気付いてしまったから、沙奈子にも絵里奈にも玲那にも完璧でいてもらおうとは思わない。努力は大切でも、努力したってできないことはできないんだ。幸い、僕たちはそれぞれ苦手な部分が少しずつ違ってるらしい。そのおかげでお互いにフォローしあえてる。


そういう意味でも、僕たちは噛み合ってるんだろうなあ。

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