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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三百四 千早編 「子供達の進路」

沙奈子が莉奈の服作りをしてる間。僕はいつもにも増していろんなことに思案を巡らしていた。ここしばらくあまり考えないようにしてた反動みたいに、次から次へと頭に浮かんでくる気がした。


玲那ともやり取りはしてたけど、玲那自身が秋嶋あきしまさんや他の友達とのやり取りにちょっと夢中になってる感じがあったから、僕の方にもそれだけ他のことを考える余裕があったというのもあるのかもしれない。


気付けばもう9時半近い。そろそろ寝る用意をしなくちゃ。


寝る用意を済まして「おやすみなさい」と挨拶をして、僕と沙奈子は一緒に横になった。それから、


「今日、千早ちゃんの様子はどうだった?」


と沙奈子に聞いてみた。彼女は少し首をかしげる仕草を見せて、「元気だった」と答えてくれた。この子がそう言うんだからそうだったんだろうなと僕も素直に思えた。


でもその時、僕はふと思い出していた。そう言えば沙奈子は以前、千早ちゃんのことを僕が尋ねると『普通』と答えることが多かった気がする。それが今では『元気だった』になってる。それが意味のある違いなのかそうじゃないのかまでは僕には分からないけど、でも『元気だった』って言ってもらえれば確かに元気だったんだろうなとは思えるかな。


こうして沙奈子を通じて千早ちゃんのことも気にかけていきたいと思う。これも、僕にそれだけ余裕が戻ってきたということのような気もする。実際、ここしばらくそこまで気にしてられなかったとも思うし。


そして僕たちは、穏やかな気持ちの中で眠りについたのだった。




火曜日、水曜日、木曜日、金曜日と、これといった変化もなく毎日は過ぎて行った。沙奈子も、絵里奈も、玲那も落ち着いた様子だった。その中で、絵里奈はフリマサイトに出品するための人形やぬいぐるみの服を作り始めたらしい。しかもやっぱり、沙奈子の『作品』も出品することにしたって。それを聞いた沙奈子はさすがに戸惑った感じだったけど、最終的には少し照れ臭そうな顔をしながら頷いてた。その時の表情も、他の人から見たらほとんど違いが分からなかったかも知れない。だけど僕たちにはそれが分かった。


だけど沙奈子には商品にするために作るんじゃなくて、まずは本人が作りたいものを丁寧に作ることを心掛けてもらうことにしたと絵里奈は言った。そうして基本を身に着けてもらうということなんだって。僕にはよく分からないけど、よく分からないから口出しはしないでおこうと思った。今、沙奈子が作ってるのはいずれ出品することになるかもしれないドレスみたいだ。


それから、千早ちゃんについても、『元気だった』と聞かされただけだった。でもそれがいい。他人の感情とかに敏感な沙奈子がそう言ってくれるってことは本当に元気でいてくれてるってことだろうからね。


山仁さんのところに沙奈子を迎えに行った時も、笑顔で『おかえりなさい』と迎えてくれる。だから余計に沙奈子の言ってることがその通りだって思えた。星谷さんからも特に何か変わったことがあるとは聞いてないし。


あと、波多野さんの件についても今のところは進展はないそうだ。裁判が始まるのを待つしかないらしい。そのせいか、波多野さん自身が若干、だれてきてる感じもした。『メンドクサイ。さっさと決着すればいいのに…』と不貞腐れた感じで言ってたりもした。玲那の時とはずいぶん感じが変わってきてる気もする。変に時間がかかると被害者側としてもモチベーションをどう維持していいのか分からなくなるのかなとも思った。


そうだよな。毎日の生活はあるんだからずっと事件のことばかり考えてる訳にもいかないだろうし。ましてや波多野さんの場合は未遂で済んだっていう事情もあるだろうし。厳しく罰してほしいという気持ちは今でも変わらなくても、とにかくさっさと終わって欲しいという気持ちにもなってしまうのは僕も分かるような気がしてしまった。


無駄に労力を割かれるとか心身ともに疲れるとか、こういう部分でも『事件を起こす』っていうのは罪深いなとも感じてしまったりもした。


そのせいか、最近、田上たのうえさんがいたりいなかったりしてた。さすがに毎日集まるのは大変になってきたのかも知れない。だって田上さんの場合は、学校に行けば波多野さんとも顔を合わせられるし様子も分かるからね。と思ってたら、実際には塾に通い始めたということだった。進学についていよいよ本格的に考え始めたということなんだろう。


イチコさんは今のままでもそれほど無理なく志望校に合格できるレベルにいるそうだし、星谷さんは『塾で学ぶ程度のことは自分でも分かります』とさらって言ってのけた。この辺りも僕には理解できない感覚だ。難関大を視野に入れてる人はそういうものなのかなと思うしかなかった。なにしろ、大学で学ぶ内容をすでに自主的に始めてるそうだし。ちなみに志望学科は『法学部』だって。それはそうだよねと変に納得してしまった。


星谷さんにとって法学部に入るのはあくまで自分が目指すところの通過点であって目的じゃないんだって。だから合格するのは当たり前で、現時点で模試はA判定が普通、普段から過去問を使って勉強してるらしい。今はそれが楽しくて、高校に通ってるのは、高卒資格を取るためとイチコさんたちと一緒にいるためだけで、ついでに改めて基礎固めをするためとも言ってた。やっぱり次元が違って当たり前なんだなと改めて実感させられた気もする。特に、『合格するのは当たり前』という辺りが、見ている部分が根本的に違う。


あんまりにもすごすぎて、何の参考にもならなかった。沙奈子の今後のために何か参考になればと思ったんだけど、いや、これは無理。こうなるように導くとか、もはや意味が分からない。視点も発想も違い過ぎて。市販の自動車を改造してF1マシンを作ろうとするくらいに突拍子もないことだと思ってしまった。だから沙奈子にはこうなってもらおうとは思わない。不可能とは言わないにしても、こんなの本人がその気になって最初からそのつもりで目指さないと話にならない。


もちろん、沙奈子が自分で目指したいと言うんなら応援したいと思う。だけど僕の方から提案するにはもはや荒唐無稽すぎる話だよ。


けれど、沙奈子は毎日、好きで勉強してる。彼女のそういう姿勢がもしこれからも続くんだったらあるいは…?。なんてことを想像してしまうのは、『親の贔屓目』ってやつなのかなあ。ああでもでも、期待し過ぎちゃ駄目だな。彼女は僕がそういうのを期待してると感じたらそれに合わせようとしてしまうかも知れない。それは必ずしもあの子がやりたいことじゃないかも知れない。


一方的な期待で兄をダメにしてしまった僕の両親のことが頭をよぎったのだった。



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