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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百九十一 玲那編 「充実した一日」

沙奈子を連れて家に帰ると、まずお風呂の用意をした。それからビデオ通話をONにして、お風呂が沸くのを待つ。すると沙奈子が日記を書き始めた。てっきり、千早ちゃんたちとカレーを作ったことを書いてたと思ったら、その後に続いて絵里奈や玲那と一緒に人形のギャラリーに行ったことも書いてた。それを見て僕もピンときた。沙奈子にとっても、もう、あれは過ぎたことになったんだって。玲那が帰ってきて普通に一緒に行動できて、普通に戻れたんだって。


別々に住んでるから完全には元通りでなくても、ある意味では一緒に住み始める以前に戻っただけとも言えるからかな。


厳密には執行猶予の期間が明けるまでは終わったとは言えないはずでも、沙奈子にはまだそういうのは理解できないのかもしれない。いずれこの子がもう少し大きくなったらその辺りのことも詳しく話してあげなきゃいけない気もする。でも今は、この子がそう思いたいのなら煩く言わないでもいい気もした。


日記を書き終わった頃、ちょうどお風呂も沸いて僕たちはお風呂に入った。玲那も『じゃあ私もお風呂入るね~』と画面から消えた。


お風呂でほっこりしてビデオ通話をまたONにすると、素顔に戻った玲那が僕たちに手を振ってきた。


コタツに入って沙奈子を膝に抱いて髪を乾かしてあげてると、勉強を始めた。今日はお休みでもいいと思ってたのに、完全に習慣になってるから、やらないと変な感じになるのかなと思った。


『沙奈子ちゃん勉強するんだ。えらいね~』


玲那からメッセージに、少し照れ臭そうに頷いていた。


沙奈子の髪が乾くと今度は僕の髪を乾かす。そうしているうちに絵里奈もお風呂から上がってきて、勉強を見てくれた。僕は古い方のPCで玲那とやり取りをする。今日は楽しかったとか、喫茶スペースでのこととか、他愛ない内容だった。だけどその他愛ないやり取りができることが大切なんだって僕は思った。そういう中で、自分の思ってることとか感じてることとかを打ち明けてもらえたらいいから。


今は絵里奈のノートPCを借りてやってるからちょっと勝手が違っててやりにくいらしいけど、来週末頃には押収されてた私物が返ってくるらしいし、そうなるとそれこそ僕と秋嶋さんたちとそれ以外の友達たちとの三元同時交信もさらに本調子になるとか言ってた。別にいいんだけど、なんかすごいね。


それとは別に、『お父さん、私のこと好き?』とか『お父さん、私のこと愛してる?』とかいうメッセージを10回に1回くらいの割合で挟んでくる。そういうのを確認したくて仕方ないんだろうなと思って『好きだよ』とか『愛してるよ』とか返してあげると、その度にすっごいニヤニヤした嬉しそうな顔になった。これじゃまるでデレデレ甘々のバカップルのやり取りだよな。


絵里奈からも向こうの画面は見えてるはずだしちらちらそれを見てる様子はあるんだけど気にしてないみたいだから別にいいのかなあ。


沙奈子からもこっちの画面は見えてるはずなのに何も言ってこないし気にしてる様子もないし、これが僕と玲那の平常運転っていう風に思われてるのかもしれない。


それに、玲那がそういうことを聞きたいというのは、そうすることがあの子にとって必要なんだとも思う。離れてる分、余計に言葉にして確認したいんじゃないかな。沙奈子も絵里奈も、それを分かってくれてるんだろうな。


結局、沙奈子はちゃんといつもと同じくらい勉強をして、それから裁縫セットを出してきた。これからまた莉奈の新しい服作りを始めるのかなと思ったら、小さい型紙と端切れを出してきて部品を切り出し始めてた。あれ?、これって果奈の服を作るってこと?。


と思いつつ様子を見ているとやっぱり小さなドレスを作り始めた。慣れた手つきでちゃっちゃと作っていく。以前作ってたものよりもかなり本格的なドレスだと思う。そうか、莉奈にちゃんとしたドレスを作ってあげたから、果奈にも作ってあげたいと思ったんだ。莉奈みたいに大きくて本格的な人形じゃなくて、果奈のような小さな玩具の人形のこともちゃんと考えてくれてたんだ。本当に優しい子だよ、沙奈子は。


さすがに今日は完成とまではいかなかったけど、明日にはもう完成しそうなくらい進んだ。ここまで見てただけでも、完成度の面でも以前のとは比べものにならない気がする。いやホントにこれ、店で買ってきたものって言っても誰も疑わないんじゃないかな。


玲那のことで僕がいっぱいいっぱいになってる間にも、この子はちゃんと成長してたんだ。改めてすごいなあと思った。と言うか、マジで今年の夏休みの自由課題はこれでいいんじゃないかなあ。果奈用の服を何着か作ってお店風にして並べるとか。うん、すごい気がする。今のうちに作り溜めておけば、夏休みに改めて作る必要もないよね。まあ、夏休み中もどんどん作るかもしれないけど。


そうか、果奈用の商品をどんどん作ってフリマサイトに出品するというのもアリか。その辺は絵里奈や玲那と相談してもらうこととして、そういう形で沙奈子の作ったものが人気が出てきたりしたら、本当に仕事に繋がるかもしれないな。そうなるともう、この子は自分の仕事そのものを自分で作っちゃうことになるのか。すごいなあ。


実際にどうなるかはまだ分からないにしても、可能性としてはありえる気もする。そうなったら僕も応援してあげたい。


『沙奈子ちゃん、すご~い!』


玲那も感嘆のメッセージを送ってきてた。


そんな中で布団を敷いて「おやすみなさい」とみんなで挨拶をして、いつもと同じように二人でぴったりと寄り添って横になった。さすがに疲れてたのかすぐに寝息を立て始めた沙奈子を見ながら、僕は今日一日のことを思い出していた。千早ちゃんたちとカレーを作ったこと、絵里奈や玲那と会いにギャラリーに行ったこと、ギャラリーの喫茶スペースでの玲那とのやり取りや、沙奈子の機転。今年は行けなかったなと思ってたのに思いがけずにできた家族みんなでのお花見。


本当に、すごく充実した一日だったと思う。これからもこういうのを続けていければ、三年なんてそれこそあっという間じゃないかな。


家族として一緒にいられる時間という大切なものは失くしたけれど、これはこれで今の状況そのものを楽しめばいい。ずっと一緒にいられないなら、会える時間を大事にしてそれをしっかりと味わえばいい。そんな風に考えれば、案外、寂しいばかりじゃない気がする。


口には出さなくても、沙奈子は寂しさも感じてるのかも知れない。だけど、それがこの子にとって耐えきれないほどのものかどうかは慎重に確かめる必要があるかな。もしこの子が今の状況に耐え切れないとなればまた何かやり方を考えなきゃいけない。でも今のところはそれほどのものは感じ取れない。


沙奈子。今は少し寂しいかも知れないけど、みんなで頑張ろう。


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