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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百八十九 玲那編 「クリームソーダ」

その一連の流れを、その場にいた大人たちはただ呆然と眺めてただけだった。


沙奈子の機転で自分の目の前に現れたクリームソーダを「わあ…」と嬉しそうに声を上げながら見てた女の子に沙奈子は言った。


「ごめんね。クリームソーダがなかったからこんなのになっちゃったけど、これでいい?」


そう聞いてきた沙奈子に対して女の子は、


「うん、これでいいよ。おねえちゃんありがとう!」


だって。あんなに駄々をこねてメチャクチャに泣いてた女の子が、すっかり笑顔になってた。だけどそんな女のに向かって沙奈子は付け足した。


「でも、これは今回だけの特別なクリームソーダだよ。だからもう、お母さんとかお店の人を困らせないであげてね。お約束できる?」


その言葉に、女の子はまた「うん、できる!」と大きく頷いた。それを見た沙奈子は女の子をそっと包み込むように抱きしめて、「いい子いい子」とポンポンと背中に触れた。その姿に、僕は強い既視感を覚えた。


『これって、僕が沙奈子にやってること…?』


周囲の大人たちの戸惑いをよそに、女の子はすごくご機嫌で沙奈子特製のクリームソーダを美味しそうに食べていた。お母さんらしい女性は恐縮しきった感じで何度も何度も僕たちに頭を下げてた。僕たちは僕たちでさすがにちょっと気まずくて、喫茶スペースを出ることにした。


会計を済まして喫茶スペースを出て、ギャラリーからも出た。元々そろそろ出ようと思ってたところだし、ちょっと落ち着くためにゆっくりと四人で歩いた。


そしてしばらくすると、さっきの沙奈子の行動に改めて驚かされていた。ああいう時、大人が口出しすると余計なお節介ってなりそうなところを、子供同士で解決してしまったこの子に、圧倒されてしまうのを感じた。


沙奈子って、あんなこともできたんだ…。


ああでも、さっき見てた時も感じたけど、あれって僕が沙奈子に対してやってることのような気がする。この子がそれを真似して、あの女の子を落ち着かせてしまったんだって。だけどすごいよ。5年生の女の子があんな機転を効かすなんて…!。


「ごめんねお父さん。アイス他の子にあげちゃって…」


両手を僕と絵里奈に繋いでもらってた沙奈子が、僕を見上げながらそう謝ってきた。いやいや、そんな謝る必要なんてないだろ。あの調子で女の子が泣き続けてたら、あのお母さんらしい女の人ももっと感情的になってしまってたかもしれない。お店の人だって困るし、他のお客さんにも迷惑だ。そういうのをささっと収拾しちゃったんだよ?。見てただけの大人の方が恥ずかしくなるよ。


「いいよいいよ、沙奈子は立派なことをしたと思う。僕たちよりずっと偉いって僕は思う」


僕の言葉に、絵里奈と玲那もうんうんと頷いてた。すると沙奈子は少し照れ臭そうに俯いた。


だけどそれにしても、本当にすごいことだと思った。この子がまさかここまでのことができるとは思ってなかった。一見すると大人しくて引っ込み思案でって感じなのに、実際にはいろんなことを考えてるんだっていうのを改めて教えてもらった気がした。そうだよ。この子はすごいんだ。


たまたま通りがかった公園で、僕たちはベンチに座ってた。帰るにはまだ早いと思ったし。


桜はもう見頃は過ぎてたみたいでもまだ少し残ってて、天気も悪くないし丁度いいお花見って感じになった。


『大きな通りに出たらコンビニあるかも知れないし、何かおやつでも買ってこようか?』


玲那がそうメッセージを送って来たけど、


「いいよ。みんなでゆっくりできたらそれでいいから」


と、このままのんびりすることになった。


沙奈子と絵里奈はまた人形の話をし始めて、僕は玲那とスマホでやり取りしてた。まったく、僕たちはどういう四人組に見えるのかな。ちゃんと家族に見えてるかな。そんなことも考えてしまった。


改めて玲那のことを見ると。大人っぽいメイクのおかげか本当に別人にも見える。だけど表情はやっぱり玲那なんだよな。僕が思ってる以上に精神的にも安定してるみたいだし、これなら大丈夫そうだと思った。その上でこうやって会える時には会って、ちゃんと僕たちが家族なんだってことを確認したいと思ったのだった。




そんな感じで話し込んでるうちに時間も過ぎて、日が傾き始めたのが分かった。そろそろ帰る時間かな。四人でバス停に向かって歩きだす。バスも、途中までは同じ方向に行くから同じバス停で待てばよかった。


絵里奈と玲那が乗るバスが先に来て、今度は僕と沙奈子がそれを見送った。別れ際、絵里奈と唇を重ねて、自分たちが夫婦だっていうのを確かめる。するとやっぱり玲那は羨ましそうに見て、沙奈子は嬉しそうに見てた。


二人が乗ったバスが見えなくなってしばらくして、僕と沙奈子が乗るバスが来た。沙奈子はまた少し眠そうだった。帰りのバスの中で彼女が寝てしまうと、僕はその寝顔を見ながらバスの揺れに身を任せてた。絵里奈とも会えたし、玲那ともちゃんと話ができた。充実した時間だった。


家に戻ると、昼のカレーの残りと昨日の手作りハンバーグを一緒にしてハンバーグカレーで夕食にした。


テレビ画面に映った玲那が『ちくしょ~!、うらやましぃ~っ!』ってメッセージを送ってきた。とか言いながら、向こうは向こうで絵里奈のカルボナーラだったけどさ。僕も久しぶりに食べたくなって、羨ましいと思ってしまった。


夕食の後はいつものように山仁やまひとさんのところに行って、絵里奈と玲那に会って僕自身で二人が落ち着いてるのを確かめたっていうのを報告させてもらった。すると波多野さんが喜んでくれて、「良かった~」って。


自分がすごく大変な時なのに、ホントに優しい子だなってまた思わされた。


波多野さんの件の大きな動きとしては、ついに、波多野さんへの乱暴のことでお兄さんが再逮捕されたって話だった。そしてその時の様子を、お兄さんを担当してる弁護士の人が話してくれたということだった。


「信じられないって顔で、呆然としてたそうです」


星谷ひかりたにさんがそう言うと、波多野さんは「はっ、ザマぁ…!」と吐き捨てるように言った後、天を仰ぐように上を向いてしまったのだった。


それがどういう気持ちを表してるのかは、僕には分からなかった。だけど、本当にただ『ザマアミロ』って思ってるだけじゃないような気はした。憎い加害者とは言え、実のお兄さんでもあるんだもんな。いろんな複雑な気持ちが込められてる気もする。


それと同時に、波多野さんはもう、家を出て行ったお母さんとも一切連絡を取ってないって話だった。それどころか、家にいるお父さんとも、たまに波多野さんが荷物とか取りに顔を出しても口もきかないとも言っていた。玄関もリビングもすごく散らかってて荒れてて、『もう、この家も終わりだな』って思ったとまで…。


だけど、波多野さん自身は逆に、すっきりした顔をしてるようにも僕には思えたのだった。


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