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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百七十四 玲那編 「理不尽な正義」

家に帰ってドアを開けて沙奈子を部屋に入れると、その時、隣の部屋のドアが開いた。秋嶋さんたちだった。


「玲那さん、釈放されたんですね。おめでとうございます!」


声は決して大きくないけど、それでもすごく嬉しそうな感じだった。でもどうしてそれをと僕が呆然としてると、


「玲那さんからメッセージが来たんですよ。僕たちの連絡用の掲示板に」


だって。ああ、なるほど。玲那とは直接つながりもあるもんね。


「ありがとうございます、みなさんのおかげです」


僕はそう言って深々と頭を下げた。すると秋嶋さんたちも恐縮した感じで頭を下げてくれた。ただ…。


「玲那さんが有罪になったのは、僕たちは納得できません…」


と、うなだれながら秋嶋さんが呟くように言った。正直言って、その気持ちは僕にもある。だけど、玲那自身がこの結果に納得してるんだから、それはもう受け入れるしかないと僕は思ってた。その辺りが、僕と秋嶋さんたちの差なのかなとも感じたりした。玲那の傍にいる僕と、玲那に憧れているだけの秋嶋さんたちとの……。


それでも取り敢えず、玲那が釈放されたのは良かったということで気を取り直して、「おやすみなさい」と挨拶をしてそれぞれ部屋に戻った。ちょっと不安そうに僕を見てた沙奈子には、


「大丈夫だよ。お話は終わったから」


と声を掛けて、二人でお風呂に入る。


一人で入るお風呂もゆっくりできていいんだけど、やっぱり二人で入るともっと癒される気がするなあ。沙奈子のほっこりとした様子が間近で見られるのがまたいい。外にいる時なんかはどうしてもどこか緊張した表情になってるから、それが緩み切って、お湯で戻したお餅みたいな顔になってるんだ。こんな沙奈子、お風呂でないと見られない。その様子がまた可愛くて癒される。これもそう遠くないうちに見られなくなるのか。それはそれで残念だなあ。


ああでも、いけないいけない、沙奈子は女の子なんだ。いまでも大人になってからの彼女にとっては黒歴史になるかもしれないんだから、なるべく早く一人で入れるようになってもらった方がいいんだ。うん。


なんてことを自分に言い聞かせながらゆっくり温まって、二人で一緒にお風呂から上がった。四月に入ったというのにファンヒーターなしだとまだ寒い。だから今でも使ってる。僕一人なら我慢するところなんだけどね。


体の大きい大人と違って子供はすぐに熱を奪われる。大人よりも基礎代謝が活発だと言っても、風呂上りとかで奪われる熱はそれでは補い切れないと思う。だから僕は自分が我慢できるからって体格がまるで違う沙奈子も同じように耐えられるとは考えない。この辺りはまだ、節約するには難しい部分だと思った。


その代わり、部屋着に着替えてコタツに入ったらもうファンヒーターは切るけどね。こうやってこまめに節約していこう。


沙奈子を膝に抱いてコタツに入って、今日はノートPCでビデオ通話をした。彼女が一人でも絵里奈や玲那と顔を合わせられるように、使い方を覚えてもらうためだ。実際、僕が指示しながら操作してもらった。


「沙奈子ちゃんおかえり」


『おかえり沙奈子ちゃ~ん』


今日は山仁さんのところに寄ったし、二人も山仁さんたちとビデオ通話で話したから遅くなることは分かってたから心配はしてなかったみたいだけど、待ちかねてた感じはあった。


だけど今日から、30分は早く寝るようにしないとね。朝もこうやって話した時に沙奈子が朝食の用意をしてくれたことは言ったから、二人も納得してくれてた。ああでも、休日の前の日とかはちょっとくらいはいいかな。


髪を乾かしながら、沙奈子は莉奈の服作りを始めた。PCの画面の前で絵里奈にそれを見せて指示してもらいながら、器用に作業をしていた。もう要領を掴んだ感じもする。子供だから順応性が高いのかなと思った。


そんな感じで、結局は10時前に寝ることになってしまった。ついつい、惜しくなってしまうっていうのもあったし。でもさすがに眠そうになってきたから無理はしない。


「おやすみなさい」


画面に向かってキスの仕草をする沙奈子と一緒に、僕も二人に向かってキスをする仕草をした。すると二人も、


「おやすみ」


『おやすみ~』


とキスを返してくれた。ノートPCだからスマホより画面が大きくて、すごくいい感じだ。本当に、これのおかげで思ったよりも寂しくない。いやはや、すごいなあ。


その時、ふと思いついた。確かうちのテレビ、PCに繋げられるよな。だからテレビの画面に大きく映せば、もっと臨場感があるかもしれない。そして僕は、テレビをモニターにするべく、ケーブルを買ってくることを決めた。節約も必要だけど、このくらいは大丈夫だよね。預金もまだ残ってるし。




翌朝。土曜日。昨日は結局、買い物に行かなかったから、朝のおかずはベーコンエッグになった。そして今日から、また、冷凍のお惣菜を届けてもらうことにもなってる。絵里奈がずっとこっちにいてくれたからやめてたのを、再開したんだ。沙奈子には僕の分も合わせて一品だけおかずを作ってもらうということで。


そして実は、今日、千早ちはやちゃんたちが手作りハンバーグを作りに来る。だから今日の夕食のおかずは手作りハンバーグの残りということになると思う。


絵里奈と玲那に会うのは毎週土曜日ってことに決めてたけど、今回は木曜日にも会ってるし、しかも玲那の引っ越しがあるからお預けということになった。


ただ、そのことについて昨日、山仁さんのところで二人から聞いたんだけど、引っ越しの準備のために玲那の部屋に行ったら、ドアや壁に落書きがされてたということだった。『人殺し』だとか、『クソ女』だとか…。ネット上に向こうの部屋の住所が晒されてたからだろうということだった。消せるものはその時に消したけど、油性ペンで書かれたらしいのとかは上からガムテープを貼って取り敢えず見えないようにしたらしい。ドアの郵便受けにも嫌がらせのメモとかゴミが入れられてたということだった。


その話を聞いた時、やっぱり波多野さんは怒ってた。


『なんだよそれ!、いくら何でもふざけ過ぎだろ!。ぶっ飛ばしてやりたい!!』


って。だけどそれは、波多野さんのところも同じだった。嫌がらせの電話は毎日のように掛かってくるし、脅迫めいた郵便物も届く。玄関に落書きされたり敷地内にゴミが投げ入れられてたり、窓に石をぶつけられたりってこともあったらしい。


もちろん、法律に触れるようなことをしたのは悪いと思う。でも、だからってそれは違うんじゃないかなと僕も思った。落書きなんて、それ自体が器物損壊という犯罪になるはずだ。落書きした本人も犯罪者だろ。嫌がらせや脅迫だってそうだ。やってる奴は正義のつもりかもしれないけど、そんな目に遭ってる波多野さん自身も、お兄さんの被害者の一人なんだぞ。


その波多野さんを苦しめる行為の一体どこに正義があるって言うんだ…!。


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