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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百六十一 玲那編 「意外な接点」

沙奈子と絵里奈がお風呂から上がって次に僕が入って、湯船に浸かりながら僕はまた考え事をしていた。


星谷ひかりたにさん、昨日は波多野さんのところへの嫌がらせを防ぎきれなくて凹んでたみたいだけど、そういうのを引きずらない人なんだなっていうのも感じた。


落ち込んでる暇があったらできることをするっていうことなのかもしれない。そういうのは見習いたいと思った。


とそこまで考えた時、気付いてしまった。


「…あれ?。そう言えば探偵事務所に調査依頼したって、料金とかはどうなってるんだろう…?」


そうだよ。弁護士費用のことだって、佐々本ささもとさんからは何も聞いてない。まさか、星谷さんが出してくれてる…?。


いや、それはおかしい。星谷さんにはそこまでする理由はないはずだし。だいたい、そんなお金をどうやって工面してるんだ?。普通の高校生の女の子に用意できる金額じゃないと思うんだけど…?。


その疑問については、後で判明した。星谷さんは僕に向かって突然頭を下げて、


『ごめんなさい。山下さんのこと、勝手に身辺調査させてもらってました』


って言った後、事情を説明してくれた。というのも、沙奈子の実の父親の件で、星谷さんの知り合いの刑事さんが大希ひろきくんや千早ちはやちゃんにまで接触してきて、それであの子が何か大きな事件にでも巻き込まれてるんじゃないかと心配して探偵事務所に沙奈子や僕の身辺調査を依頼したっていうことだった。


結果としてはそんなに大事でもないってことが分かって安心したらしいけど、勝手にそういうことをしてしまったのを申し訳ないと感じてて、その罪滅ぼしってわけじゃないにしても星谷さん自身のケジメとして、弁護士費用については立て替え、調査費用については自分持ちっていうことにしようと思ってたということだった。


しかも、どこからそんなお金を調達してるかという点についても、


「あ、それはぜんぜん心配ありません。私、こう見えても年収一千万以上ありますから」


と平然としてた。


「特許料収入だけでそれだけあるんですよ」


…はい…?。特許料って…。特許持ってるってことだよね…?。高校生で…?。やっぱり住む世界が違うって改めて実感させられてしまったのだった。




でもこの時点ではまだ星谷さんが弁護士とか探偵事務所とかをどういう風にしてるのかよく分からなくて少し困惑しながらお風呂から上がって、沙奈子を膝に寛ぎながら三人で寄り添ってた。


沙奈子は莉奈の服作りをして、絵里奈は僕に体を触れさせるようにしながら服作りを教えてあげてた。


結局、絵里奈も会社を辞めてしまって、しばらくは玲那の傍にいるということになった。警察病院への転院の手続きとかもあるし、それに何より、いずれ来る逮捕拘留の時までなるべく一緒にいてあげたいということだった。それについては僕も異論はない。できれば僕も一緒にいてあげたいくらいだった。だけど僕まで仕事を辞めてしまったらすぐにみんな共倒れになってしまう。それは困る。だから今は玲那のことは絵里奈に任せて、僕は僕の仕事をするだけだ。


正直、上司のイヤミや圧力は強くなってきてると思う。でも僕にとってはまだまだ十分にスルーできる程度だった。ただ、明日から英田あいださんの代わりに新しい人が来るらしい。その人が仕事に慣れてきたらどうなるか、少し不安もあった。でも僕は負けない。負けてられない。くだらない嫌がらせなんか徹底的にスルーしてやる。それは僕が最も得意とする特技だからね。


そんなこんなで時間も過ぎて、10時にはやっぱり三人で固まって寝た。お互いがまだすぐ傍にいるのを確かめるように…。




翌朝月曜日。いつものように用意をして、だけど絵里奈は沙奈子と一緒に僕を見送ってくれた。今日からはまた僕は一人で通勤だ。一緒での通勤に慣れてしまってたからちょっと寂しかったりもしたけど、なに、どうせすぐそれにも慣れるさ。


ただ、昼休みに社員食堂に行っても絵里奈も玲那もいないというのは思ったよりもこたえた。気持ちを切り替えるきっかけがなくて、始業から終業まで心を閉ざしたままにしないといけなかった。その状態はかなり久しぶりだから、思った以上に疲れてしまった。以前はこれが普通だったはずなのに、自分でもよくこんなことを何年も続けてたなと思ったりもした。だけど当分、これで行くことになるんだ。細かいことは考えず、仕事に集中しよう。


それと、英田さんの代わりに入ってきた人は、真崎しんざきさんというらしかった。僕が言うのも変だけど特徴のないすごく凡庸な感じの人で、名前すら覚えていられる自信はなかった。けれど仕事自体は経験者だということで今日一日やっただけで大体要領は掴んだらしい。明日からさっそく普通に仕事できそうだということだった。まあ、どうでもいいけどさ。


家に帰ると沙奈子と絵里奈が「おかえりなさい」と迎えてくれた。やっとホッとできて嬉しかった。お風呂の後で絵里奈から、今日の玲那の様子を教えてもらった。


もちろん絵里奈は沙奈子を送り出した後で掃除や洗濯を片付けてそれからはずっと玲那の傍にいたということだった。その途中、当然のように警察が来て話を聞いていったらしい。佐々本さんもいてくれたから何とかなったらしいけど。


あと、山仁さんから連絡があって、警察病院の方の受け入れの用意ができたという話だった。だから明日、転院することになるらしい。


ところで、僕も今回のことがあるまでよく知らなかったんだけど、警察病院と言っても別に病院そのものが警察の施設の一部っていう訳でもなく、基本的には民間病院の一種で一般の患者も来る普通の病院だから、実は警察の言いなりになるばかりでもないってことだった。ということは当然、患者のことを第一に考えてくれるってことだから安心していいと山仁さんから聞いてた。


それともう一つ、玲那とは関係ないんだけど、絵里奈から聞いた話で少し気になることがあった。玲那の担当の看護師さんの一人の名前が、『石生蔵いそくら』だったらしい。それで思い出した。千早ちゃんのお母さんは看護師さんだってことを。そんなによくある苗字じゃないし、しかもその看護師さんの顔立ちが千早ちゃんに似てたからもしかしてって思ったらしかった。


でもさすがにそんな込み入った話は聞けなくて確かめられなかったということで、千早ちゃんとの関係についてはまだ分からない。しかも、学校が終わった頃を見計らって山仁さんのところに迎えに行って沙奈子と一緒に戻った時に会ったのに全く様子が変わらなかったから、沙奈子のことは知らないみたいだということだった。しかしもし、千早ちゃんのお母さんだったりしたら、思わぬところで接点ができたと思ったのだった。


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