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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千五百八十二 沙奈子編 「自分とは別の自分に」

僕がもし『完璧な人』だったら、沙奈子が完璧に納得できることを言えると思うんだけど、でも実際にはぜんぜんそうじゃない。今だって、彼女は僕の言ってることが腑に落ちてないのが分かるしね。つまり僕は『完璧な人』なんかじゃないんだよ。そんな僕が、


『お父さんの言うことに従っていれば間違いない』


なんて言ったら、そんなのは大嘘だよね。現に今、沙奈子が完璧に納得できる言い方ができてないんだから。


いくつになっても人間は決して完璧にはなれなくて、


『この通りにすれば間違いない。すべて上手くいく。幸せになれる』


なんていう『方法』も存在しないと僕は思ってる。僕が実践してることも、あくまで、


『僕たちが置かれている状況の中でならだいたい上手くいく可能性が高い』


というだけだし。『類は友を呼ぶ』という形で、おおよそ近い考えや感覚を持つ人が集まってるからというのが大前提になってるものだし。


前提条件が違っているのに誰かが言ってたやり方をそのまま取り入れたって、漫画やアニメやドラマや映画の中で描かれてたやり方をそのまま取り入れたって、上手くいくはずがないよね。そんなことがいつでも通用するなら、幸せになることなんてすごく簡単だよ。きっと。


「お父さんにはお父さんの考えがあって、沙奈子には沙奈子の考えがある。それは間違いないんだ。お父さんと沙奈子は別の人間で、そして別の人生を送ってきたし、これからも別の人生を送っていくことになる。仕事も違う。関わることになる人も違う。それでお父さんのやり方が完全に沙奈子にも当てはまるわけがないんだよ。


だいたい、お父さんは男の人で、沙奈子は女の人で、生理とかについてもお父さんは完璧に理解できてるわけじゃない。生理中の心理状態についてお父さんはアドバイスはできない。だろ?」


これについては、


「うん、それはそうかも。私も、生理が始まるまではこんな感じだなんてぜんぜん分かってなかった。なんか分かんないけど落ち着かなくていつもは別に気にしてないちょっとしたことが気になったりして。生理じゃない時の自分とは別の自分になっちゃってるって感じがする。これは確かにお父さんには分からないかな」


とも言ってくれた。


「だよね。だいたい、こうやって自分の父親と生理について普通に話ができる女の子っていうのもそんなにたくさんはいないかもね。だったらみんな同じにできるわけじゃないっていう証拠じゃないかな」


「確かに……」



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