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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千五百六十四 沙奈子編 「ただのまぐれ」

『誰かを傷付けようとしないだけなら、なにも別に無理に仲良くする必要もない』


僕はそう思うんだ。


だって、大人は普通にそうしてるよね?。仕事上の付き合いとか、ご近所付き合いとか、


『この人、苦手だな』


『この人はあんまり好きになれないな』


と感じる相手とでも、『社交辞令』という形でそれなりに穏当にやり取りすることを心掛けてるんじゃないのかな?。それは『仲良くしてる』って言える?。そんなのまで『仲良くしてる』ってことにしてしまったら、本当に仲良くしてる相手のことがぜんぜん特別じゃなくなってしまうと思うんだけどな。


ただ、幼い子供のうちはそういうニュアンスが上手く理解できない場合もあるかもだから、それであくまで、


『相手が嫌がることはしないようにしましょう』


という意味で『誰とでも仲良くしましょう』と言ってるんだとしたら、分かる気もするけどね。でも実際には、それを口にしてる教師自身がその辺りのニュアンスを本当に理解してるのかどうかは、いささか疑問な気もするんだよ。僕が通っていた小学校の教師とかは、まさしくそうかな。『誰とでも仲良くしましょう』と生徒には言いながら、子供心にも、


『あ、この先生とこの先生は仲が悪いんだな』


って感じる教師とかも何人かいたし。だから『誰とでも仲良くしましょう』とか言われてもぜんぜん響かなかったんだろうなって、今なら思うんだ。


そう思うなら、やっぱり、親としては『誰とでも仲良くしましょう』というあんまりにも大雑把でざっくりとした言い方よりも、丁寧に詳細に伝えるようにしたいと思うんだよ。どこまでいっても『ほんの一時的な関わり』で、しかも『何十人もの子供を同時に相手にする』しかない教師では、そこまで手間も時間もかけてられないだろうからね。


沙奈子と千早ちはやちゃんの件について、


『仲良くしようね』


みたいな言い方まではしなかったのは、我ながらよかったと思う。『よくやった』と思う。だけどそれは本当にたまたまなんだ。あの時点ではそこまで考えてなかったし分かってなかったし、まったく深く考えもせずに『仲良くしなきゃ駄目だよ』とか口走ってしまわずに済んだのは、ただの『まぐれ』でしかない。今なら意識してそんな言い方をしないようにはできるし、もし咄嗟に口にしてしまったとしても、どういう意味でそれを口にしたのか、補足もできると思う。


『仲良くしなきゃ駄目だよ』なんて口にした僕自身が嫌な相手とは仲良くなんてできないのにそんな言い方したら、言われた方も納得できないのがすごく分かる。



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