二千五百六十二 沙奈子編 「その時の工作が」
『子供はまだまだ経験が少ないから相手を慮って気遣ってというのが上手くできないのが当たり前』
『それを、親をはじめとした身近な大人たちが誰かを慮って気遣ってってする姿を見ることで学んでいく』
そう考えると、
『相手を慮ったり気遣ったりということができない人』
がなぜできないのか、分かる気がするんだ。
それと同時に、玲緒奈がひどい我儘を言わない理由も分かる気がするんだよ。それは結局、僕たちが沙奈子や玲緒奈を慮って気遣ってることの真似なんだろうってね。
上手くできないならできないなりにでも、自分がそうしてもらってるのを真似してるんだろうなって。
だから沙奈子も、玲緒奈と同じく、僕たちをはじめとした周りの人たちの真似をしてると思うんだ。
僕たちが上手くいってるのは、沙奈子が僕たちを慮って気遣ってくれてるところも間違いなくある。だけど、それに甘えてるだけじゃ駄目だとも思ってる。
だって、子供が自分を気遣ってくれてるのに甘えてたら、『親として大人として手本を示す』ことができないよね?。
それじゃ意味がないよね?。
絵里奈と玲那も、夏休み中に沙奈子をテーマパークに誘おうかとも思ってたらしいというのも思い出す。でも結局、自分たちがまだぜんぜん信頼を得られてないことを理解してて、それで遠慮してくれてたんだった。そこで、
『あなたのためだから』
と強引に誘おうとするような二人だったら、きっと僕も沙奈子ももっとガードが固くなってしまってただろうな。あの時からすでに相手を慮って気遣おうとする姿勢そのものは見せようとしてくれてたってことか。それが結果として今に繋がってるんだ。
でも今は、そういうことは脇に置いて、ただただ彼女の話に耳を傾けたい。こんな機会、もうあまりないかもしれないし。
「二人のことはちょっと怖かったけど、あの時に拾った貝殻は、今でも大事にとってる……」
沙奈子が口にした『貝殻』。それは、絵里奈と玲那に付き合ってもらって集めた貝殻のことだった。そしてその貝殻と言えば、『夏休みの工作』として作ったドールハウスをデコレートするために使ったっけ。
小さな小さな二枚貝の殻は人形のための食器にして、大きな二枚貝の殻はドールハウスの庭に見立てたところに置いて『子供用のプール』ってことにしてたりしたっけ。
思えばあの時点でもう、沙奈子の非凡な才能の片鱗は見えてたような気がする。
しかもその時の工作が、千早ちゃんとの関係を大きく変えるきっかけになったんだったな。




