二千五百五十八 沙奈子編 「お化けみたいな」
僕と沙奈子は、布団こそ別々だけど、かつてのように寄り添い合って、見つめ合って、話をした。
本当にこういう形で話をするのは久しぶりだった。会話そのものはいつだってしてても、二人きりで、お互いの息がかかるほどの距離でというのはね。
そしてこうしてると、昔のことが次々思い出されてくる。
「そう言えば、絵里奈と玲那のこと、最初はどう思ってた?」
不意に気になって聞いてみた。するとそれには、
「最初は怖かった……」
少し困ったように微笑みながら沙奈子は応えた。
「だよね。見てるだけでも分かったよ」
僕は自分が苦笑いを浮かべてるのを感じつつ相槌を打つ。すると沙奈子は、
「なんか、お化けみたいなメイクしてたのもホントは怖かった」
だって。
『お化けみたいなメイク』
確かに、知り合ったばかりの頃の絵里奈と玲那は、二人揃ってすごく派手な印象のきつい化粧をしてたな。なるほど子供の目から見たら『お化けみたい』に思えても不思議じゃないか。だけどその上で、
「でも、今はもう怖いとは思わないよ。お母さんとお姉ちゃんがどうしてそんなメイクしてたのか分かったから」
とも。
そうだった。二人は亡くなった香保理さんを偲んでそうしてて、香保理さんは自身のつらい過去と『共存』するために敢えて奇抜で強い印象のあるメイクを、『戦化粧』のように施して自らを奮い立たせてたんだった。
その香保理さんは、他にも『リストカット』という形で自分の体を傷付けてその痛みで、
『自分は生きている』
と実感を得るようにしてて、でも、泥酔したままリストカットしてお風呂に入ったことで『事故死』したんだ。
その事情を絵里奈と玲那から聞いたから、沙奈子も当時の二人の化粧について理解を示してくれてるんだよ。
だけどやっぱり、事情を知らないと何とも言えない印象を受ける化粧だったのも事実だと思う。だから僕も、
「そうだね。お父さんも最初は少し怖かったよ。だけど、相手を怯ませるのも目的の一つだった化粧だから、そういう意味じゃ成功してたんだろうね」
まだ自分が苦笑いを浮かべてるのも感じながら言った。
それでも、沙奈子が当時の二人の化粧について理解を示してくれてることについては、素直に嬉しかった。他の人からは奇妙に見える振る舞いにもちゃんと理由があるんだというのを認められる子になってくれてるのが分かったから。
自分に理解できないこと、自分の価値観にそぐわないことを、まるで『悪』のように見下し貶し蔑む人もいる中で、そうじゃないのが実感できるから。




