二千五百五十五 沙奈子編 「あの時は本当に」
『久しぶりにお父さんと二人で一緒に寝たい』
沙奈子のそんな要望を聞き入れて、僕は彼女と一緒に三階に上がった。三階にも来客用として布団を置いてあるからそれを敷く。
彼女が来てまだ日が浅かった頃に、確か臨海学校の直前に、彼女の方から僕の手を握ってきて、それで一緒に寝たのが始まりだったけど、いつの間にかそれが当たり前になっていったっけ。
ああ思い出した。そうやって一緒に寝るようになったばかりの時に二泊三日の臨海学校に行くことになって、僕も久しぶりに沙奈子が部屋にいない状態を過ごして、何とも言えない気分になったんだった。それからはもう完全に一緒に寝るのが当たり前になっていったんだ。
だけどさすがに、小学生だった頃の彼女に比べて体も大きくなったから、一組の布団で寝るのは無理があると思って、二組並べて敷いた。
それでも以前のように寄り添って横になると、
「本当に大きくなったな……」
思わずそう口にしてしまった。
最近はずっと玲緒奈を間に挟んで寝てて少し距離があったし、何よりどうしても玲緒奈の方に意識が向いてしまっていたのもあったんだろうな。
それが改めてこうして触れそうなくらいに近くで見ると、僕の中にあった彼女のイメージと少なからず違ってしまっていたんだ。
たぶん僕の頭の中にあったのは、小学校高学年頃の沙奈子の姿なんだろうな。だけど間違いなく大きくなってるんだよ。大きくなってるのは分かってたはずなのに、しっかりと実感として腑に落ちてなかったってことかな。
そんな感じて少し戸惑っていた僕に、沙奈子は、
「お父さん……、くっついて寝ていい……?」
って。その顔が、『子供の顔』から『若者の顔』になってきてるはずなのに、なんだかあの頃のままにも思えてしまって、
「いいよ……」
当たり前みたいに応えてた。ううん、僕にとってそれは『当たり前』だったんだと思う。拒まなきゃいけない理由がないんだ。
すると彼女は、
「ありがとう……」
言いながらさらに近付いて、僕の腕に顔を寄せてきた。それは、僕と一緒に寝ていた頃の彼女の寝方。沙奈子の体温が、僕の腕に伝わってくる。
と、いろんなことが頭の中によみがえってきた。
「そういえば、臨海学校の時に家の鍵を持たせるのを忘れたっけ」
ついそう口にすると、沙奈子も、
「うん……、あの時は本当に怖かった。『家に帰れない』って思ったら、怖くて怖くて……」
当時を思い出したらしくて、そんなことを。
「そうだったんだ……」




