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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千五百四十四 沙奈子編 「楽しかった」

そうして、僕たちの夕飯は、沙奈子が一から作ったカレーになった。他の料理は、千早ちはやちゃんが母親やお姉さんたちのために、大希ひろきくんが山仁やまひとさんとイチコさんのために、結人ゆうとくんが鷲崎わしざきさんと喜緑きみどりさんのために、それぞれ持ち帰ることになって。


だけどまだそれでも残ってる分は、冷蔵庫にしまっておいて明日以降順次食べる形に。


「いや~、忙しかったけど、楽しかったね」


千早ちゃんが言うと、沙奈子も、


「うん、楽しかった」


と、いつもの『他の人には分かりにくいけど僕たちには分かる笑顔』で応えてくれた。


「僕も楽しかったよ」


「こういうのも悪くねえなとは思ったかもな」


大希ひろきくんと結人ゆうとくんが言うと、


「俺も、こんなだったら料理も楽しいんだけどな」


両親のための食事を作り終えて戻ってきた一真かずまくんが、苦笑いを浮かべて。小学生の頃から両親のために料理をしてる彼だけど、それは少しも『楽しい』ことじゃなかったそうだ。小学生で料理をするのは大変だということ以上に、『あの両親のために』というのが苦痛で苦痛で、まさしく『苦行』や『苦役』だったらしい。


すると千早ちゃんが、


「まあ、私もあの人らのために料理をすんのはぜんぜん楽しくないから、気持ちは想像できるよ」


やっぱり苦笑いになって。


母親やお姉さんたちに食事を用意することは、最初のうちは『見返してやる』的なモチベーションもあって頑張れたけど、それがもう当たり前になってくると、ただ『自分しか作る人がいないから』って感じで作るようになってしまって、『仕方なく』になってしまってるというのも正直なところらしかった。


こういうのも、世間では珍しくないことなんだろうな。感謝してくれるわけでもなく、褒めてくれるわけでもなく、ただただ仕方なく家族の食事を用意してるっていう人も多いんだろうなって。だから、愚痴みたいなのを発信する人も多いんだろうなって。


これに対して、大希くんは、


「お父さんやお姉ちゃんは、いっつも『ありがとう』って言ってくれるのにな」


と、少し悲しそうな笑顔で。だから僕も絵里奈も玲那も、


「そうだね」


「感謝してくれたり褒めてくれたら、モチベーションになるよね」


「ありがとう、みんな」


画面越しだけど、そう声を掛けたんだ。そして、玲那が一階まで取りに行ってくれた沙奈子のカレーを、二階のリビングでいただく。沙奈子たちは、一階でみんなで。


まだ二歳の玲緒奈れおなには、大人たち用のカレーと同時に作ってくれた、スパイス控えめの幼児用カレーを。


それをみんなでね。



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