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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千五百四十 沙奈子編 「大丈夫だとは」

「まあとにかくそれはそれとして」


そして、結人ゆうとくんがきっかけで脱線しかけた話を、千早ちはやちゃんが引き戻してくれる。


沙奈子はそれほど気にしてないようだったけど、今はね。


「なんにしてもさ、沙奈がどうかってのがまず大事じゃん。でさ、正直なトコどうなん?」


回りくどく腫れ物に触るような言い方じゃなくて、単刀直入に聞いてくる。これも、千早ちゃんだからこそだろうな。それに対して沙奈子も、


「うん、たぶん、大丈夫だとは思うけど……」


そう言ってケーキを頬張って。


こうしてみんなでケーキを食べ切ると、沙奈子はいつものように、仕事道具の裁縫セットを収納の中から取り出してきた。それは、学校の家庭科の授業で使うような小さなものじゃなく、買い物カゴよりも大きいくらいの、さまざまな裁縫道具や材料がぎっしりと詰まったそれだった。あれやこれやと必要だと感じたものを用意していったらいつの間にかこれほどのものになってしまってたんだ。


そして裁縫セットを開けて、生地を手にしたのに、


「……」


手にした生地を見つめたまま、動かなくなってしまった。いつもなら当たり前のようにそこからドレス作りを始めるのに、躊躇いなんか一切なかったのに、今日は違ってたんだよ。


「沙奈……」


「……」


「沙奈、お前……」


「山下……」


「山下さん……」


普段と違う沙奈子の様子に、その場の空気が冷えるのが分かった。千早ちゃんも大希ひろきくんも結人くんも一真かずまくんも篠原さんも、心配そうな表情になる。それくらい、初めて見ると言っていいほどの姿だった。


「あれ……、おかしいな……」


沙奈子自身も戸惑ったように口にする。


「私、いつもどうしてたんだろ……」


これまではまったく意識しなくても体が勝手に動いてドレス作りを始めてたのが、そうじゃなくなってたみたいなんだ。


「沙奈子ちゃん……」


「やっぱり、ぜんぜん平気ってわけじゃなかったんだ……」


絵里奈と玲那も不安そうに声を漏らした。その上で、玲那が、


「これって、スポーツ選手とかがなるっていう『イップス』なのかな……」


とも。


昔は『スランプ』みたいにも言われたらしいそれは、僕も聞いたことがあった。詳しいことは分からないけど、とにかく、それまでできてたことがある時を境にできなくなってしまうみたいな症状らしいね。


今の段階でそう決めつけてしまうのは早計だろうし、なにより僕たちはそういうことの専門家じゃないから、勝手に解釈するのは危険だとも思う。思うけど……。





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