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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千五百二十一 沙奈子編 「不実な人の虚言」

そうだ。これまで僕たちが重ねてきた経験が、今回もきっと役に立つと思う。そのために僕は備えてきた。


具体的な内容までは予測できなくても、『不測の事態』というものはいつだって起こりえるんだから、そのこと自体に備えるというのはできるはずなんだ。心構えを作っておくのはできるはずなんだ。


それを怠ったことでより不幸を大きくしたりするなんて、馬鹿馬鹿しいんじゃないかな。


そしてそれは、沙奈子の気持ちを受け止めることも含んでるんだよ。


強くショックを受けた彼女の気持ちを蔑ろにした所為で信頼を失ったりしたら、それをきっかけにして別の不幸を呼び寄せるかもしれないよね。


と言うか、僕にとっては沙奈子の信頼を失うというのがまず大変な不幸なんだ。


あの子が、僕たちじゃない、あの子を利用したいだけのどこかの誰かの言葉を信じたりするようになるなんて、想像したくもないよ。


だけど世の中には、自分の身近な家族とかの言葉に耳を傾けない人もいるよね。それだけじゃなく、明らかに騙そうとしてる人の言葉こそを信じてしまったりという場合もあるよね。


それはどうしてなんだろう。どうして自分のことを本当はよく知りもしない人の言葉を信じてしまったりするんだろう。


それって結局、本当は自分のことをよく知りもしない人の方が自分を理解してくれているような気がするからなんじゃないのかな。


そんな人にさえ敵わないような信頼関係しか築けてないっていう話なんじゃないのかな。


騙すために耳に心地いい言葉を並べる人の方が自分の気持ちに寄り添おうとしてくれてるように感じてしまうからじゃないかな。


どうしてそんな人に敵わないのかな。


そんな人がするような振る舞いさえしてこなかったということじゃないのかな。


僕は親としてそれをすごく情けないと感じる。


そんな人にも敵わないような親ではいたくない。


だから、沙奈子の言葉にしっかりと耳を傾けて彼女に気持ちに寄り添う努力をするんだ。その努力を怠りたくないんだ。


不実な人の虚言にも敵わないような親でいたくないんだ。


不実な人が誰かを欺き誑かすためにしてる努力にさえ及ばないような努力をしただけで親としての務めを果たしたと考えたくないんだ。


それは、千早ちゃんたちに対してもそう。


今の時点では事実を告げないとしても、


『詳しいことが分かってもいないうちから事実を告げたりはしない』


という判断がそのまま強い不信感を招くなら、それってつまり、そこに至るまでの間にもたくさん嘘を重ねてきたりしたんじゃないかな。



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