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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
2502/2601

二千五百二 沙奈子編 「あくまで穏当に」

そうして、沙奈子と絵里奈と玲那は、山下典膳やまもとてんぜんさんと面会するために出掛けて行った。


人生部の部室には、朝一番でやってきた一真かずまくんと琴美ことみちゃんの姿。そこに、沙奈子たちと入れ替わりで千早ちはやちゃんたちも続々やってくる。


「あ、もう行ったんですね」


沙奈子の姿が見えないことで、千早ちゃんはすぐに察したみたいだ。


春休み中に沙奈子が『SANA』に出勤してた時もそうだったけど、沙奈子の姿が見えないと、千早ちゃんは少し残念そうな表情をする。決して露骨に残念がってるわけじゃないものの、一瞬、寂しそうな様子になるのは事実なんだ。それだけ沙奈子のことを好きでいてくれてるんだっていうのがすごく感じられる。


最初の出逢いは必ずしも『良好なもの』とは言えなかった沙奈子と千早ちゃんではあっても、今ではそれくらいのいい関係を築けてる。


あの頃の千早ちゃんの姿はもうどこにもない。


『人間は変われるんだ』


っていうのをすごく感じる。たとえ本質そのものは変えられなくても、自分のその本質とどう付き合っていけばいいのかを考えることはできる。考えて実行することはできる。


千早ちゃんも、出逢ったばかりの頃に沙奈子に対してつらく当たったりした激しい気性そのものは今もしっかりと残ってるのは事実だと思う。千晶さんの妊娠・中絶の一件でもそれは確認された。


でも同時に、自身の気性を理解してそれとどう上手く折り合っていくかを考えることができるのも人間というものだと、彼女は僕に示してくれた。


もちろんそれは、本人にそのつもりがあればだけどね。


本人にそのつもりがなくちゃ自覚しようもないだろうし。


結人ゆうとくんだって、攻撃的な気性そのものは、決して変わってない。ただそれを彼自身がある程度は制御できるようになってるだけだ。


実は一真かずまくんにもそういう一面があるらしい。僕たちの前では見せたことはこれまでないけど、


「小さかった頃の俺は、すぐにキレる子だったらしいです。それをあいつらが抑え付けてただけで」


とも言ってた。『我慢ができない子』だったそうだ。それが、近所の人たちと触れ合っている間に緩和されてと言うか、彼自身が自分の感情を制御できるようになっていったって。これも結局、近所の人たちがちゃんと手本を示してくれてたからだと思う。気に入らないことがあるからって感情的になって攻撃的になってそれで相手を黙らせようとするんじゃなくて言うことを聞かせようとするんじゃなくて、あくまで穏当にっていう手本を。



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