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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
2501/2601

二千五百一 沙奈子編 「崇拝する必要は」

五月三日。水曜日。晴れ。


憲法記念日。




今日、いよいよ沙奈子が山下典膳やまもとてんぜんさんと面会する。


「この服、変じゃないですか?」


「口紅はこっちの方がいいかな?。ああでも、こっちの方が典膳さんのドールのイメージに近いかな……?」


等々、山下典膳やまもとてんぜんさんに会えるってことで、絵里奈はそれこそすごく浮かれた様子だった。


その一方で、沙奈子は学校の制服に身を包んで、早々に準備を終えてた。『高校生の正装と言えば制服』ってことでね。沙奈子ももちろんドールは好きだけど、特に山下典膳やまもとてんぜんさんのドールには思い入れもあるけど、絵里奈みたいにテンションが上がってしまったりはしない。


「絵里奈ってば、ホントにミーハーだよね~」


玲那がそう言ったのが的を射てると思う。だから浮かれてるんだろうな。


だけど僕はそれでいいんじゃないかなとも思うんだ。自分の憧れの対象と対面できるんだから、少しくらいはね。


それにこれは大きな転機になるはずだし。


何しろ、ゴールデンウイーク明けには沙奈子は晴れて正社員として登用されるのが決まってる。これまでは絵里奈が代わりに受け取っていた給料も、すべて沙奈子自身が受け取ることになる。それによって彼女は僕の扶養からも外れることになるんだ。『SANA』で一番の高給取りになるし。


でもそれは当然だよね。だって、『SANA』は沙奈子がいてこその企業なんだから。


彼女を崇め奉るようなのはさすがに違うとしても、その貢献度を正当に評価すればそれ以外の選択肢がなかった。


これは、絵里奈も玲那も星谷ひかりたにさんもイチコさんも田上たのうえさんも認めるところだ。誰一人、異を唱える人はいない。


それでも、『偉い』か『偉くないか』では話をしたいとは僕たちは思ってないんだよ。給与の点でしっかりと評価はしてるんだから、なにも宗教のように崇拝する必要はないはずなんだ。


山下典膳やまもとてんぜんさんのギャラリーでも、そうだって。彼がいてこその企業ではあっても、きちんと待遇面で相応のものを用意してるから、そこ以外では特別な扱いはしないって。それが本来は自然なんだと思う。無闇に誰かを祀り上げることの方が不自然だって気がする。


特に企業の場合はね。


沙奈子にもそれは分かっていてほしいと思う。今は別に思い上がったような振る舞いをしない彼女だけど、変にちやほやされたりしたら勘違いしてしまうことがないとは言えないんじゃないかな。そうであってほしくはないけど、沙奈子だってただの人間だから、自分でも気付かないうちに舞い上がってしまうことだってあるかもしれない。僕は親として、冷静で客観的な視点を持って様々な手本を示していかなきゃと心に決めてる。


もっとも、そう心に決めていても実際にできるかどうかと言われれば心許ないんだけど。



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― 新着の感想 ―
[一言] 会社の評価の格言に 「能力には地位ではなくて金で応えろ」 って言う言葉があるらしいんですよね 会社を維持する能力と製品を創り出す能力は違うもので、製品を創り出す能力が優れている人に 地位を与…
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