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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千四百八十五 沙奈子編 「必要な仕事」

四月十七日。月曜日。曇り時々雨。



「ゴールデンウイーク中に、山下典膳やまもとてんぜんさんとお会いすることになりました」


仕事から帰ってきた絵里奈がすごく嬉しそうにそう言ってきた。


典膳さんと会えるってことでテンションがすごく上がってしまってるんだろうな。完全に、『仕事上の関係者』としてじゃなくて、『山下典膳やまもとてんぜんさんのドールのファン』としての反応ってことだと思う。


そんな風に絵里奈が入れ込んでるドールを生み出す人形作家としての典膳さんは、とてもミステリアスな人で、人前に姿を現すことは普段はないらしい。


素顔も出してないそうだ。素顔を知っているのはパートナーである山下やましたさんをはじめとした数人だけで、『山下典膳やまもとてんぜん』という名前もあくまで作家としての『屋号』であって本名じゃないそうだし。


でもそれは沙奈子も同じだから。『デザイナーSANA』としては完全に正体を隠してるし、もちろん本名も素顔も出してないし、そんなに大して気にすることじゃないんだろうな。


芸能人とかも普段は芸名を名乗ってて、漫画家とかもペンネームを名乗ってるのと、変わらないのか。


だけど、世の中にはいまだに、『公務員』や『普通の会社の正社員』や『医師』といったもの以外については『まともな仕事じゃない』的な認識が一部には残ってるみたいだね。昔に比べればそれも随分と解消はされてきてるみたいでも、やっぱり、『公務員』や『普通の会社の正社員』や『医師』に比べれば色眼鏡で見られる風潮はまだまだある気がする。


でも、典膳さんのドール制作に関連するそれは、ちゃんと法人格を持った企業として運営されてて、そこには『正社員』もいて、監査も定期的に行われてて、決して『怪しげな何か』じゃないんだよ。典膳さん本人はそういう部分にはノータッチだとしても、きちんとそういう部分について担当してくれてる人がいるんだ。


こういう部分でも、『人は一人で生きてるわけじゃない』と言えるよね。確かに人形作家としては一流でも、ドール制作以外のすべてについて一人で何もかもこなせてるわけじゃないだろうし。


それと同時に、『決して完璧とは言えない』山下典膳やまもとてんぜんさんがいるからこそ彼のギャラリーは企業として成立してて、そこに仕事が生まれて、その仕事をこなすことで賃金を得て自身の生活を成り立たせてる人たちがいるのは紛れもない事実のはずだよね。


そこに優劣はなくて、それらすべてが『必要な仕事』なんだよ。それを担ってくれてる人たちを、正社員だから偉くてアルバイトだから軽んじていい見下していい蔑んでいいっていうわけじゃないと僕は思う。



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