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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千四百七十七 沙奈子編 「その手の話が」

四月九日。日曜日。晴れ。




一週間、ある意味じゃ予行演習として『SANA』に通って勤務してきた沙奈子だったけど、だからって何か特別な変化があるようには感じなかった。


『大人としての自覚が芽生えた』


とか、


『一回り成長した』


とか、その手の話が好きな人が喜びそうな展開はなかったんだよ。


だけど人間ってそんなものだと思う。『感動の実話』って銘打たれた映画とかでも、実際には原型をとどめないくらいまで脚色が加えられたりしてるらしいよね。


だったらそれは、本当に『実話』なのかな。


『こんなことがあった』という概要の部分だけが一致しているに過ぎない、まったく別の話なんじゃないかな。


もちろん、『エンターテイメント』としてはその方が正解なんだと思う。正しいんだと思う。でも、エンターテイメントとして楽しむためのそれに、どれだけの『生身の人間の実際の姿』が映っているんだろうね。絵的に見栄えがいいように演出された『演技』は、普通の人の普段の姿なの?。僕にはとてもそうとは思えないんだ。言い方は悪いかもしれないけど、『嘘くさい』んだよ。空々しいんだ。


もし、沙奈子の人生が映画とかで描かれることになったとしても、その中で沙奈子として役を演じる人の表情や仕草は、決して沙奈子自身のそれじゃないだろうなって気がして仕方ない。沙奈子じゃないんだから当然なんだけど、『沙奈子とは別の人』という以上に、


『本当の沙奈子がするはずのない表情や仕草やしゃべり方をする』


のが分かってしまうんだよ。しかも、


『エンターテイメントとして見栄えのいい表情とか仕草とかしゃべり方』


になってしまってるだろうから、それにすごく違和感を覚えるんだ。


間違いなく『僕の知ってる沙奈子じゃない』だろうな。


だけど、映画を見る人は、むしろそういう『見栄えのいい演出や演技』を求めるんだよね?。そうじゃなかったら、


『下手くそ!』


『大根役者!』


『猿芝居!』


みたいに罵るんだよね?。じゃあやっぱり、沙奈子の人生や生き様そのものを見たいんじゃなくて、『見てて心地好い作り物』を見たいだけなんだ。それを見て沙奈子のことを分かったような気になったりする人がいるのって、僕はすごく残念な気分にしかなれないだろうな。なにしろ、


『沙奈子とはまったく別の『何か』を見て、沙奈子のことを理解した分かった気になる』


わけだから。


『本当の沙奈子を知らないクセに……』


と思ってしまうだろうなって感じるんだよ。そんな風に思ってしまう自分が嫌ではあるけど。



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