表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
2472/2601

二千四百七十二 沙奈子編 「ドールの作り手が」

四月四日。火曜日。晴れ。




昨日、事務所で辞令を読み上げるだけのささやかなものだけど、イチコさんと田上たのうえさんの入社式が行われたそうだ。だけど、そんなに改まった感じにはならなかったって。それでも、区切りの一つにはなるのかな。


しかも、


山下典膳やまもとてんぜんさんが今月の中旬頃には帰ってくるそうです。それで、一度、沙奈子ちゃんと面会したいということで」


仕事から帰ってきた絵里奈が、そう口にした。母親の傍にいるために実家に帰ってそこで介護をしながら人形の制作を行っていた山下典膳さんが、母親を看取り、それに伴うあれこれを終わらせて整理して、いよいよ本来のアトリエに帰ってきて、本格的に活動を再開するそうだ。


「それで、一度、沙奈子ちゃんに直接会ってゆっくり話がしたいとのことです。典膳さん自身、人付き合いが得意な人じゃないのもあって、実はこれまでビデオ通話みたいな形でさえ顔を合わすのを躊躇ってたそうですけど、お母さんが亡くなったことで改めて『生きてる間しか顔を合わすことができない』と実感して、踏ん切りがついたとのことで」


「なるほど」


その気持ち、僕にもなんとなく想像できる気もする。僕の場合は、両親に対する『思慕の念』みたいなものは、今に至っても一切湧いてこないけど、絵里奈と玲那の恩人である香保理かほりさんのことを思うと、


『一度お会いして話をしてみたかったな……』


と思わなくもないんだ。でも、それはもう永久に実現できない。亡くなった人と会うことはできないからね。


もっとも、香保理さんが生きてたら、そもそも絵里奈と玲那が僕に興味を持ってくれてたかどうかさえ分からない気もする。


それを考えると、人生っていうのはどこまでも皮肉なんだなとも思う。香保理さんが亡くなったことで僕は絵里奈や玲那と家族になって、玲緒奈れおなが生まれたってことになるかもしれないんだから。


山下典膳さんが沙奈子と会おうと決心できたのも、もしかしたら本当に母親が亡くなったことが大きく影響したのかもしれないし。それがなければ、沙奈子はずっと、山下典膳さんの素顔も知らずにこれからもドレスを作り続けることになったかもね。


もっとも、そうだったとしても、沙奈子はこれまで通りにドレスを作り続けるだろうな。彼女にとってはドールのドレスを作ること自体が大切なんであって、


『自分が作ったドレスを着るドールを誰が作ったか?』


はそれほど重要じゃないみたいだし。


ただそれでも、お互いに直接顔を合わすこと自体には、意味もあるんじゃないかな。ドールの作り手がちゃんと血の通った生きた人間だっていう実感があるのは、大事なような気もするんだ。そこに命があるのを実感することで、血は通ってないドールにも命の形が見えるかもしれないしね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ