二千四百七十一 沙奈子編 「詭弁にすら」
四月三日。月曜日。晴れ。
そうだよね。正社員であってもアルバイトであっても、企業にとっては必要だから雇ってるんだよね?。アルバイトが集まらなくて人手が確保できなくて経営が成り立たたなくなる企業があったりするくらいには。
だから、正社員もアルバイトも、あくまで雇用形態が違うというだけで、企業経営の観点からはどちらも重要な従業員のはずなんだ。
確かに、アルバイトの方は、人員調整の際には都合がいい雇用形態なんだとしても、その、
『人員調整の際には都合がいい』
こと自体が、企業にとっては『ありがたいこと』なんだよね?。そういう『ありがたい存在』について感謝しない敬わないって、『人間として好ましい在り方』なのかな?。
『親を敬え』
『親に感謝しろ』
みたいに言われるのは、『子供にとって親はありがたい存在』だからなんじゃないの?。『ありがたい存在だから敬うべき、感謝するべき』だと言うのなら、企業にとってありがたい存在であるはずの従業員については、正社員かアルバイトかに関係なく敬って感謝するべき存在なんじゃないのかな。
だけど実際には、アルバイトっていうだけで下に見て軽んじていいみたいな風潮があったりするよね?。それはなぜ?。
こういうのがはびこってる以上は、
『子供にとって親はありがたい存在だから敬うべき。感謝するべき』
なんて理屈も、『詭弁にすらならない』と感じるよ。結局は『自分にとって都合よく理屈を使い分けてる』だけだしね。
と僕が考えてる中で、朝、沙奈子は絵里奈や玲那と一緒に、自転車で出勤していった。もちろん、『いってらっしゃいのキス』と『いってきますのキス』を交わして。
「いってら~♡」
キスを交わした後、玲緒奈は三人を笑顔で見送ってくれた。三人がこのまま帰ってこなくなるとか、そんなことは微塵も心配してないのがその様子から分かるし、確かに沙奈子も絵里奈も玲那も、玲緒奈を見捨ててどこかに行ってしまうなんてことは考えてもいないのがよく分かる。伝わってくる。実感としてある。だから笑顔で見送ることができるんだ。
これもずっと、自分の普段の振る舞い自体で示してきたこと。伝えてきたこと。伝わるまで示してきたこと。その結果がすでに出始めてるんじゃないかな。
だったら、沙奈子に対してもこれからもちゃんと、大切なこと、分かってほしいこと、知ってほしいこと、とかについては普段の振る舞いでしっかりと示してきたいと改めて思う。それをするのが親の務めだと思うんだよ。




