二千四百七十 沙奈子編 「別に試験とか」
四月二日。日曜日。晴れ。
明日から、沙奈子も『SANA』に『出勤』することになった。もちろん、学校が休みの間だけではありつつ。
「お〜っ!、いよいよかあ!」
昨日、人生部の活動中にそれを聞いた千早ちゃんが興奮したように声を上げた。
「今までとそんなに変わらないけどね」
応える沙奈子に、今度は大希くんが、
「それでも、だよ。アルバイトとしてっていうのと正社員としてってのは違うんじゃないかな」
と口にして、さらに、
「だよな。違うから、アルバイトってのは正社員に比べたら下に見られんだろ?」
と結人くん。
すると一真くんが、
「でも、アルバイトってのも、必要だからあるんだろ?。なのに正社員より下に見られるっておかしくないか?」
って言い出して。
「言われてみたらそうかも」
千早ちゃんが口にしたのを篠原さんは、
「え?。それが普通でしょ?。だって正社員は試験とか受けて入るけど、アルバイトってそうじゃないし」
って応えて。だけどこれに沙奈子は、
「私は別に試験とか受けるってなってない……」
と。
そうだよね。正社員だからって別に常に入社試験とか受けるわけじゃない。イチコさんも田上さんも、入社試験は受けてない。入社試験をするかしないかは、あくまで企業側の事情のはずだから。『SANA』では、今のところ縁故採用ばかりなのもあって必要ないし。
学歴のこともそうだけど、試験はあくまで本人のしてきた努力や身に付けてきた能力を大まかに推定するだけのものでしかなくて、優秀かどうかは担保してくれないよね。
だけどイチコさんや田上さんについては、本人の能力も『ひととなり』ももうよく分かってるし、その上で試験をする手間を掛ける意味もないし。
それよりも、たとえアルバイトでも、企業にとっては必要な労働力として雇われてるんだから、本来なら正社員と同じように大事だよね。いないと困るんだよね?。
『アルバイトなんていくらでも代わりはいる』
って?。だけどそのアルバイトさえ確保できなくて経営にまで影響してる企業があるとも聞くんだけどな。いくらでも代わりがいるはずのアルバイトが雇えなくて。
代わりがいなかったからそんなことになったんじゃないの?。
アルバイトのはずの波多野さんも、とても頼りにされてて、時給もちゃんと上げてもらえてるって。
篠原さんはまだ高校生で、実際の仕事とかについては実感もないだろうから仕方ないかもしれないけど、それなりに社会も経験してきてるはずの大人が、ただ雇用形態が違うというだけで、
『正社員は偉くてアルバイトはそうじゃない』
とか思ってるんだとしたら、僕は大人として情けないと思う。




