二千四百六十三 沙奈子編 「腑に落ちる」
三月二十六日。日曜日。雨。
いい歳をした『大人』と呼ばれるはずの年齢の人が、ネットで暴言を吐いて悪態を吐いて罵詈雑言を並べるということをしてるらしいね。
だけど、沙奈子も千早ちゃんも大希くんも結人くんも一真くんもそんなことしないんだけどな。どうしてしないかと言ったら、『する必要がない』からだと思う。
『優しい』とか『モラルがある』とかじゃなくて、それ以前に『する必要がないからしない』だけだと思うんだ。
ネットで暴言を吐いて悪態を吐いて罵詈雑言を並べるということをしてる人たちは、どうしてそんなことをしてるのかな?。なぜそんなことをしてるのかな?。何のためにそんなことをしてるのかな?。
『言いたいことを言いたい』から?。じゃあ、どうして『言いたいことを言わずにいられない』のかな?。相手は、一方的に知ってるだけの存在でしかなくて、相手の方は自分のことをまったく知らなかったり、それこそ完全に見ず知らずの相手だったりするんだよね?。どうしてそんな人を相手に『言いたいことを言わずにいられない』のかな?。その人に何をされて言いたいことを言わずにいられなくなったの?。そしてそれは、本当に『言わなければいけないこと』なのかな。
昔はネットとかなかったから、電話とか投書とかいう形だったよね。だから『面倒だ』と考えて電話したり投書したりしなかった人も少なくなかったんじゃないかな。
つまり、『言いたいことを言いたい』という気持ちよりも『面倒だ』っていう気持ちの方が勝ったりしてたんだよね?。その程度の『言いたいこと』だったんだよね。なのに、ネットで気軽に発信できるようになったからって『言いたいことを言う』とか、それって本当に『言わすにいられないこと』なのかな?。
とてもそうは思えないんだけどな。
それよりも、『ただの憂さ晴らし』『八つ当たり』『ストレスの転嫁』って言われた方がずっと納得できるよ。
ずっと腑に落ちる。
それでも、そうしなくちゃいられないんだよね?。だからそれがなぜかというのがとても気になるんだ。沙奈子や千早ちゃんや大希くんや結人くんや一真くんがしなくて済んでることをしなくちゃいられないその理由が。
その理由について自分自身できちんと把握して対処するようにできれば、そんなことをしなくても済むようにできるんじゃないかな。
『そんなことしてられるか!』
って?。それで他の誰かを自分のストレス解消に利用するというのは、人としてどうなのかな。僕は親としてそう感じるんだけどな。




