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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千四百六十一 沙奈子編 「一番の高給取り」

三月二十四日。金曜日。曇り時々雨。




『親に感謝しろ』


それをことさら強調しないといけないのは、結局、そんな風に押し付けないと尊敬してもらえないのが分かってるからじゃないの?。尊敬できる、尊敬してもいい、尊敬したい相手なら、別に『尊敬しろ』なんて言われなくても尊敬するよね?。


だから僕は、沙奈子や玲緒奈れおなに僕のことを『尊敬しろ』なんて言わないんだ。そんなことを言う必要も感じてない。だけどそれは決して、僕自身が自分を『立派な親だ』と思ってるからじゃなくて、逆に立派な親じゃないからこそ尊敬なんかされてもいたたまれない気分になるからなんだよ。僕はそんなに自惚れることができる人間じゃない。自己肯定感はとても低い方だと思う。


でも、自分ができることしたいことしなきゃいけないことは、自己肯定感とは別の話なんじゃないかな。自己肯定感云々抜きで、僕は自分にできることをしなきゃと思ってる。


沙奈子が人形の服を自分で作り始めたのだって、別に自己肯定感とは関係のない話だったと思うし。まったく関係ないわけじゃなくて、多少の影響はあったかもしれないけど、それだけが理由じゃないのも確かだと思う。そうして今、彼女はもう、ドールのドレス作りだけで自分の生活を成り立たせることができるまでになってる。


「改めて沙奈子ちゃんに支払うことになる給与を算出したら、『SANA』で一番の高給取りってことになりました。でもこれは当然だと思います。『SANA』はあくまで沙奈子ちゃんあってのものですから」


絵里奈が言うように、沙奈子の名前を冠してる意味はまさしくそこにあるよね。絵里奈もデザイナーとして仕事はしてるけど、完全に沙奈子のドレスの人気には届いていないそうだから。


それでいて、絵里奈は沙奈子の才能を認めてる、沙奈子の才能に惚れてるから、自分が敵わないことについてはむしろ自慢なんだって。


「そういう部分で負けん気を発揮できないという時点で私の才能はそこまでのものなんでしょうね」


と苦笑いを浮かべたりもする。だけど絵里奈がそれで納得してるなら、僕が口出しする話でもない。彼女も自分で自分のことができる大人だから。


そして沙奈子も、いずれは今よりずっと自分で自分のことができるようになっていくだろうな。僕の部屋に捨てられた子犬のようだったなんて、今の沙奈子の姿からは想像もできないよ。


僕はそれがとても嬉しい。彼女がそうなれる手助けをできた自分自身が誇らしいと感じるくらいにはね。



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