二千四百十七 沙奈子編 「学生らしい学生さん」
二月八日。水曜日。晴れ。
『学歴フィルター』の話がまたあれこれ言われてるみたいだけど、僕自身は『学歴フィルター』そのものはむしろあって当然のように思ってるんだ。
だって、企業の側からしたら、縁故採用でもない限り、相手がどういう人かまったく分からない状態で判断しなきゃいけないんだよね?。
確かに、
『学歴が高いから能力も高いはずだ』
と安直に考えるのは乱暴だと思うにしても、それなりの学校に進学するためには相応の努力が必要だし、求められるレベルに自分を引き上げていくための手法とか、それができるようになるためのセンスとかも必要だろうから、『相手がどういう人かまったく分からない』状態でその中から企業が必要と考えてる能力を持っている人を探し出すには、やっぱりある程度は的を絞った方が現実的だと思うんだ。
具体的に必要としてるスキルや資格が明確な専門職だったら募集の時点でそれを明示すればいいかもしれないにしても、そうじゃない一般職の人とかの場合だとそれも難しいだろうからね。
『SANA』の場合は、今の時点では縁故採用ばかりだからそもそもその人がどういう人でどんな能力を持ってるかも分かってる上で採用できてることで学歴なんか関係ないのは事実でも、これはあくまで『零細』規模の企業だからできることだっていうのもあると思う。
こういう点でも、それぞれの事情や背景に合わせて様々なやり方が出てくるものなんじゃないかな。
学歴によって相手の人間性まで決めつけて貶したりするのはよくないと僕も思う。そんなことをするのは恥ずかしいと思ってる。ただ、そうやって相手を蔑んだり貶めたりってことじゃなくて、ただただ『大まかに選考対象を絞るため』というだけだったら、蔑んだり貶めたりしてることにはならないんじゃないかな。
山仁さんも言ってた。
「私の知人で、同じく父子家庭としてお子さんを育ててらっしゃる方がいらっしゃるんですが、その方の娘さんも一弧と同じ美大に通ってるそうなんですが、就職活動を始めて早々に内定を得られたそうです。しかもその際に面接担当者に言われたのが、『今時、ここまで学生らしい学生さんは珍しい』だったと。
そして企業側が内定を出す決め手になったのは娘さんが、『大学に通い始めてからずっと同じコンビニでアルバイトを続けていた』という事実のようです。つまりその企業としては、必要最低限の能力があれば後は真面目に働いてくれるかどうか?が重要だったんでしょうね。そして『三年半以上同じコンビニでアルバイトを続けられた』というのは、大きな評価ポイントになったということのようです」
ってね。




