二千四百五 沙奈子編 「平時だからこそ」
一月二十七日。金曜日。曇りのち雪。
雪もまだ一部では残りつつ、残ってるところはアイスバーンになったりしつつ、ほとんど消えた。
『仮設トイレ』については、玲那だけじゃなく、僕も、沙奈子も、絵里奈も、一通り試してみた。
「何とも言えない気恥ずかしさはありますね。でも、慣れればいけそうかな」
「うん」
絵里奈と沙奈子はそう言って、
「よゆーよゆー!」
玲那は笑ってる。
そして僕も、
「そうだね。普段使いにはさすがに厳しいけど、非常時用だと思えば大丈夫そうだ」
というのが正直な感想だった。『絶対に無理!』ってわけじゃないのはありがたい。だけどやっぱり、シャワーカーテンみたいなので覆われてるだけだと落ち着かないのも本音だから、段ボールで覆ってしっかりと個室っぽくしようと思う。上の部分が開いてるから臭いが部屋に漏れるというのもあるだろうし、上も塞ごうかな。
そんな調子でだいたいの感じは掴めた。実際に役に立つことがない方がもちろんありがたいんだけど、今日、早速、
「ほおーっ!」
玲那が三階へ駆け上がっていった。玲緒奈がトイレにこもってたからまずは一階のトイレに行ったんだけどそこも絵里奈が使ってて、仕方なく仮設トイレに。
普通、トイレが二つあればだいたい大丈夫だと思うんだけど、たまにこういうこともあるからね。玲緒奈がもっと小さかった時には『おまる』で済ましてたりもしたのが、幼児用の便座を使ってトイレでするようになったから余計にかな。
「ふい~……」
危ういところで難を逃れた玲那が、紙袋を持って下りてきた。用を済ませた後、黒いナイロン袋の中で凝固剤で固められたのをさらにナイロン袋に入れてその上で紙袋に入れて『燃やすごみ』として出すためだ。仮設トイレで出たものは、ましてや凝固剤で固められたものはトイレに流せないから、『燃やすごみ』として処理することになるし。そう。『凝固剤で固められたものはトイレに流せない』ってことなんだ。僕も調べるまでは知らなかった。知ってしまえば『それもそうか』って思えるんだけど、普段はまったく意識してなかったからね。
こういうことも事前に承知しておいた方がいいんだろうなと思う。いざその時になって慌てないように。
平時にわざわざ試すのとかについてもあれこれ言う人もいるかもだけど、平時だからこそ試す余裕があるはずだけどな。別に日常的に使うつもりもないし。
非常時に備えることについてあれこれ難癖をつける人って、結局、実際の非常時にも文句ばかり言いそうな印象はあるかな。自分の思い通りにならないことに対して、自分が気に入らないことに対して、ひたすら難癖をつけるんだろうから。




