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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千三百九十一 SANA編 「その中の一人」

一月十三日。金曜日。曇りのち雨。




「沙奈子は将来、どうしたい?」


夕食の後、玲緒奈れおなが僕で遊んでいる最中に、改めてそんなことを聞いてみる。すると彼女は、


「ドールのドレスを作っていけたらいいと思ってる。他は、まだよく分からない」


とのことだった。


「やっぱり結婚とかは考えてない?」


絵里奈が問い掛けると、


「うん。別にどうしてもしたいとは思わないかな。お父さんやお母さんみたいになれるんだったらしてみたいけど」


だって。これはもう何度も聞いたことだ。


何度も聞いたことだけど、何となくそういう流れになったらその時点での気持ちを確認しておきたいとも思う。それに、この話ばっかりしてるわけじゃないんだよ。普段はどちらかと言うと、ドールの話とかドールのドレスの話とかが中心なんだ。沙奈子と絵里奈がそれで盛り上がってるのを、横で聞いてる感じかな。僕にはドールの話で盛り上がることができないから、あまりそっちの話題に触れることができないし。何を言ってるのか分からなくて。


でも同時に、沙奈子が何を考えてて何に興味を持ってるのかを知るにはちょうどいいから助かってる。他には学校であったこととかかな。だけどそれも、授業で何をしたとか、


「体育はやっぱり苦手かな。ホントは休んでたい」


とか、


「今日は生理でお腹痛い」


とか、本当に他愛ないことばっかりで。


普通の高校生くらいの女の子は父親の前で月経の話とかしないとは聞くけど、イチコさんは山仁やまひとさんの前で普通にその話をしてたらしいし、そういうのを当たり前として平然としてたら割と気にならない場合もあるのかなって思う。変に意識するから話しにくくなるというのもある気がするんだ。ましてやそれをからかったり冷やかしたりなんて、デリカシーの欠片もない。


『父親だからデリカシーなんてなくていい』


みたいなのも意味分からないよね。僕が沙奈子のそういう部分についてことさら意識しないのは、『人間である以上は別に変じゃない』からなんだよ。そしてからかったり冷やかしたりする必要をまるで感じないから。自分がそういうことをされていい気がしないなら他の誰かに対しても、自分の子供に対してもする必要はまったくないよね。


むしろ、親がそんなことをしてたら子供だって他の誰かに対してからかったり冷やかしたりっていうのを『当たり前のこと』だと思ってしまうんじゃないかな。イチコさんや大希ひろきくんはそれを当たり前だとは思ってないよ。山仁さんがそうしてこなかったから。


だからこそ僕たちはこうして集まることができてる。力を合わせることができてるんだ。


沙奈子もその中の一人なんだよ。



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