二千三百七十 SANA編 「法律以前の問題」
十二月二十三日。金曜日。晴れ。
自転車のヘルメット着装が、『罰則のない努力義務』とは言ってもこうやって法律によって網を掛けられていくというのは、結局、元々ある法律の理念を無視して自分勝手な解釈を加えて脱法行為を繰り返す人がいるから、さらに細かく規制されていくんだろうな。
『息苦しくなる!』『窮屈になる!』とか言う人もいると思うけど、自分たちの振る舞いが招いたことなんじゃないの?。だったら文句を言うべきは脱法行為を繰り返してきた人たちに対してであって、細かく規制ができていくことじゃないと思うんだけどな。自浄作用が働かないのなら法律で縛るしかなくなるってことだと思う。
僕としては別にヘルメットを被って自転車に乗ること自体にはそんなに抵抗はないよ。帽子を被るのと大差ないしね。夏には帽子を被ってたし、冬も防寒のための帽子は被るから、それがヘルメットになるだけだと思えば大して違いはないと感じるし。もちろんヘルメットだとそ分だけ重くなるけど、それだって別に我慢できないほどのものじゃない。『我慢強い人』『我慢ができる人』ならどうということもないんじゃないかな?。
玲那は昔から自転車に乗る時はヘルメットを被ってたし、沙奈子たちにも最初から玲那が使ってるのとよく似たヘルメットを被ってもらうようにしてたし、実は一真くんと琴美ちゃんにも、『人生部の備品』としてヘルメットを用意してそれを使ってもらってる。あくまで備品だから貸し出してるだけではありつつ、それはまあ名目上かな。たぶん、二人が使わなくなったら他の誰も使わないだろうし。
だけどそれも、自宅には持って帰らずに、近所に住む『自転車の元の持ち主』の人のところに自転車と一緒に保管してもらってるそうだ。でないと、両親がリサイクルショップに勝手に売ってしまったりするそうだから。これまでにも、近所の人にもらった服やリュックとかも、売られてしまったって。だから今はもらうにしても使い込まれて一見しただけでも売り物にならなさそうな『おさがり』になってしまってるらしい。
一真くんの通学カバンも琴美ちゃんのランドセルも、近所の人の『おさがり』なんだ。こういう親も実際にいるんだよ。
『子供のものは親のもの。子供の金は親の金』
って考えてる親が。こんなことが放置されてきたから、『子供の権利』というのをきっちりと明文化しなきゃいけなくなったんだろうな。
僕は別に、『法律でそう決まってるから』沙奈子や玲緒奈のことを養育してるんじゃないよ。法律以前の問題だ。だから法律が後追いであれこれ決めてきてもそんなに困らない。ここまで困ったことはないな。




